濱口竜介監督「何度も村上春樹さんの原作に戻りました」第74回カンヌ国際映画祭を、受賞者コメントで振り返る
約10日間にわたり行われた第74回カンヌ国際映画祭が7月17日に閉幕した。今年のパルムドール(最高賞)は、地元フランスのジュリア・デュクルノー監督の長編第2作『Titane』に贈られ、女性監督作として『ピアノ・レッスン』(93)のジェーン・カンピオン監督以来2人目の受賞となった。日本から出品していた濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(8月20日公開)は脚本賞を受賞し、濱口監督が授賞式と記者会見に登壇。
カンヌ国際映画祭のオフィシャルHPでは、授賞式直後に行われた記者会見を配信している。各賞受賞者の受賞直後のコメント抜粋をお届けする。
パルムドールを受賞した『Titane』のジュリア・デュクルノー監督
(授賞式での『自分の作品は完璧ではない』というスピーチ、女性監督として2人目の受賞について)男性監督だろうが女性監督だろうが、自分の映画が完璧だとは永遠に思えないでしょう。どんな映画にも欠点はあるものです。パルムドールをとったいままでの監督のことを考えるととても光栄でした。でも、先輩たちも自分の作品に対して私が言ったようなことを感じていたと思います。短所しか見えないものです。
(映画業界における男女平等について)率直に言うと、私がいただいた賞は性別に関係のないものだと思います。ただ私が女性というだけです。映画界の男女平等のムーブメントに則ったものだとは思いません。女性監督として2番目にパルムドールを受賞したことについては、ジェーン・カンピオン監督がどう感じていたかを想像していました。2番目として、同じ流れに属していると思います。でも、2番目も3番目も4番目も、5番目だとしても同じことでしょう。
(2作目で最高賞を受賞したことについて)誰かにそう言われると、とても感情的になってしまいます。とても答えるのが難しいです。自分を誇りに思っています。ただそれだけです。
グランプリを受賞した『A Hero』のアスガー・ファルハディ監督
脚本を書く作業は在意識下にある行動です。自分の想像力から直接つながるよう、継続的に書くようにしています。物語が型作られ始めたら、再読して脚本全体に流れる共通項やハーモニーを読み取ります。物語の語り部のアプローチ方法にもっとも注意を払い、映画に対し様々な属性を持つ観客の視点を考えるためです。自分の脚本に継続して流れるものは、人々が物語を読む愛情だと思います。自分の作風にあるアクセントは消せないけれど、作品ごとに異なる扉から物語に入り、異なる方法で物語を語ることを心がけています。
グランプリを受賞した『Compartment No. 6』のユホ・クオスマネン監督
私はいつも、好きな人や安心できる人と一緒に仕事をしたいと思っています。でも今作は違い、自分が慣れ親しんだ言語以外で撮影する挑戦もありました。この映画は、少人数のスタッフで制作された親密な映画でした。初対面の映画撮影チームが出会い一緒に映画を作る作業が、(映画のなかで)異なる2人が出会うさまに重なり、私はただその様子を眺めているように感じたのです。プリプロダクションから撮影まで、撮影クルーは列車でロシアを3万キロ横断しました。私は電車が好きなので、全く問題はなかったです。
監督賞を受賞した『Annette』のレオス・カラックス監督
監督は欠席で、スパークスのロン・メイル、ラッセル・メイルが代理受賞した。
ロン・メイル(スパークス)
9年前から、次のアルバムでは映画音楽、ミュージカルに挑戦してみようと考えていました。いままでとは異なり、物語構成をやってみようと思ったのがきっかけです。前回カンヌに来た時にレオスの『ホーリー・モーターズ』を観て、彼にこのプロジェクトを送ってみようと思いました。数週間後、レオスから『やりたい』と連絡がありました。その8年後に作品が完成したことになります。レオスの映画にはいつも音楽が登場しますが、私たちは彼に全幅の信頼を寄せていました。映画は私たちが想像していた以上にすばらしいものでした。
ラッセル・メイル(スパークス)
8年間、ロサンゼルスとパリを行き来しながら共同作業を行いました。私たちは、ブロードウェイやハリウッドのステレオタイプから脱却した、現代的なミュージカルについての同じ視点を持っていました。
審査員賞を受賞した『Memoria』のアピチャッポン・ウィーラセタクン監督
私たちはスローダウンする必要があると思っています。ロックダウンで隔離された世界では、デジタルな時間軸と実際の時間軸にずれが生じているような気がしていました。時間感覚への感謝と、時間の体感への思いを映画にしました。
(ティルダ・スウィントンとの仕事について)彼女は映画内で私の言葉を代弁してくれる人でした。人生を愛し、恐れを知らない人です。それと同時に、彼女は確かではないものにも飛び込み、そこから学ぶ姿勢を見せてくれました。私もそこから学ぶところが多く、私たちが考える“シネマ“について共通項がたくさんありました。昨日の私の誕生日にティルダは“タコの知性”についての本を、『ずっとこの本を贈りたかった』と言ってプレゼントしてくれました。それが私たちの次のプロジェクトになるかもしれないですね。