『モンタナの目撃者』でアンジェリーナ・ジョリーが新境地を開く!確かな演技力で血の通った戦うヒロインを体現
オスカー受賞の卓越した演技力で、血の通った女性を熱演
そしてなにより注目したいのが、そんな“生身”の人間ドラマに説得力を与えるジョリーの演技力だ。彼女が演じるハンナは、森林火災の消火作業中、救えたはずの幼い命を救えなかった過去の出来事で心に深い傷を負ってしまう。そんな時に出会ったのが“ある事件の目撃者”で、唯一の生存者である少年のコナーだった。彼を守り戦うことを通じて、ハンナは自身のトラウマと対峙することになる。ジョリーはハンナについて、「彼女はすさまじい悲劇を経験し、責任を感じている。彼女は平静を装い、勇敢に振る舞います。でも内面は壊れ、その後もずっと罪の意識に苦しんでいる」と説明。続けて、「大きな経験をして心が折れたあと、進むべき道を見つけ、克服するキャラクターに引き付けられる。そういうキャラクターや人生を演じることができると、気分がいいんです。観客にも同じ感覚を持ってもらいたい。そして、私たちは全員、立ち直ることができるのだ、と思い出してほしい」と話す。
そんな血の通った女性になり切れるのは、やはり確かな演技力があってこそ。本作のメガホンをとるテイラー・シェリダン監督は「特質と才能、キャラクターの深み、肉体能力、そしてハンナ役としての信憑性を考えた時、アンジーは明らかにそのすべてに合致していた。森林消防隊員は飛行機からパラシュートで降下し、山火事が起きた道なき場所に降りる。ものすごく危険で、大変な勇気を必要とする仕事であり、自分を追い込んで、どれだけやれるか知りたいと思うような人に向いている」と話し、詳細な計画が出来上がった時、ジョリーに脚本を送り、役をやりたいかどうか尋ねたことを明かしている。
キャリアを振り返っても、ジョリーの俳優としての力量は証明されている。心を病んだ少女に扮する『17歳のカルテ』(00)で24歳にしてアカデミー賞助演女優賞を獲得。巨匠クリント・イーストウッドと組んだ『チェンジリング』(08)では、失踪した息子の行方を追うシングルマザーの心理に迫り、同主演女優賞にノミネートされている。また、マット・デイモンと共演して諜報員の妻を演じた『グッド・シェパード』(06)やゴールデングローブ賞ノミネートの『マイティ・ハート 愛と絆』(07)での演技は、多くの観客にジョリーが単なるアクション・ヒロインではないことを印象づけたと言えるだろう。『モンタナの目撃者』でもそんなジョリーの熱演に唸らされ、感情を揺さぶられる瞬間が見て取れる。
この10年はジョリーにとって“激動”というべきものだった。ブラッド・ピットとの結婚と離婚、ガンとの闘いといったプライベートでのニュースが報じられるなど、精神的にタフな経験であったことは想像に難くない。そうした激動の時代を経たジョリーだからこそ、いままでとは一線を画すヒロイン像を創出できたと言える。『モンタナの目撃者』はまさに、演技者として新たな幕開けを迎えたジョリーを、我々が“目撃”する場となるだろう。
文/有馬楽