本人出演の押井守やAwesome City Clubもピックアップ!『花束みたいな恋をした』ポップカルチャー辞典

コラム

本人出演の押井守やAwesome City Clubもピックアップ!『花束みたいな恋をした』ポップカルチャー辞典

「東京ラブストーリー」「最高の離婚」「カルテット」「大豆田とわ子と三人の元夫」など、数々の人気ドラマを手がけてきた脚本家の坂元裕二が、東京を舞台に描くラブストーリー『花束みたいな恋をした』(21)。菅田将暉と有村架純が演じる若いカップル、麦と絹の“5年間の恋のゆくえ”に多くの人が共感を寄せた大ヒット作のBlu-ray&DVDが発売された。映画にマンガ、小説、音楽と、劇中に様々なカルチャーの固有名詞が登場するのも本作の魅力の一つ。ここでは、現在開催中のフジロックフェスティバル '21に出演予定のAwesome City Clubといった人気バンドなど印象的なポップカルチャーをいくつかピックアップし、登場シーンと合わせて紹介したい。

京王線の明大前駅で終電を逃したことが出会いのきっかけに
京王線の明大前駅で終電を逃したことが出会いのきっかけに[c]2021「花束みたいな恋をした」製作委員会

麦と絹を結びつける映画にドラマ、アニメーション

【押井守】
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95)、『イノセンス』(04)、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08)などで知られる日本アニメ界の巨匠、押井守監督。麦が「世界水準」と言っているように、カンヌやヴェネツィアなど海外の国際映画祭でも高い評価を獲得している。2015年冬、京王線の明大前駅でそれぞれ終電を逃した麦と絹は、その場にいたサラリーマンとOLと一緒に、深夜営業のカフェで時間をつぶすことに。麦はそのカフェの一席に、トレードマークのニット帽をかぶった押井守がいることを発見する。

このカフェのシーンでは、押井監督が本人役としてカメオ出演。初対面だった麦と絹を結びつけるキューピッド役を担った。これは脚本の坂元自身が、実際に中目黒の商店街で押井監督を見かけたという体験から生まれたエピソードであるとのこと。

【『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(91)】
台湾ニューシネマを代表する監督の一人であり、『ヤンヤン 夏の想い出』(00)ではカンヌ国際映画祭監督賞を受賞した名匠、エドワード・ヤンが手がけた青春映画の傑作。1961年に台北で実際に起きた14歳の少年による同級生女子殺傷事件をモチーフに、少年とその家族、友人たちの心情を通して、青春期特有のきらめきと残酷さ、背景となる社会や時代をも描き切っている。本作は188分バージョンと236分バージョンがあり、ヤン監督の生誕70年、没後10年となる2017年3月、日本では約25年ぶりに236分の4Kレストア・デジタルリマスター版が公開された。劇中では絹が麦を映画に誘うが、就職したばかりで多忙の彼に断られてしまう。

【『希望のかなた』(17)】
フィンランドの名匠、アキ・カウリスマキ監督が、難民問題をテーマに描いたヒューマンドラマ。第67回ベルリン国際映画祭で、銀熊賞(監督賞)を受賞した。2017年冬、「クリスマスだし、買い物しようよ」と言う麦に、絹は「映画が観たいの」と、渋谷のユーロスペースへ。スクリーンを見つめながら、感動で胸を震わせている絹に対し、もともと乗り気ではなかった麦は少々冷めた様子。そんな麦にちゃんと気づいている絹に、その夜、麦が「映画、おもしろかったね」と、とってつけたように言うシーンが苦い。

【新海誠】
2017年夏、フリーター生活をしていた麦と絹は、2人で一緒に居続けるために就職を決意。慣れない就職活動を始めた絹の「新海誠が突如、ポスト宮崎駿になっても…」というモノローグが流れる。これは『秒速5センチメートル』(07)や『言の葉の庭』(13)といった数々の作品がコアなファンに愛されてきた新海監督が、2016年8月26日に公開された『君の名は。』の爆発的ヒットにより、国内のみならず世界でも一躍メジャーになったことを指す。最終興収が250億円を超えた『君の名は。』から3年ぶりとなる『天気の子』(19)も興収140億円を超え、2019年最大のヒット作となった。

【「ストレンジャー・シングス 未知の世界」】
舞台となる80年代のポップカルチャーが随所に盛り込まれ、社会現象的なブームを呼んだNetflixオリジナルのアメリカのSFホラードラマシリーズ。インディアナ州の架空の町ホーキンスで暮らす少年少女たちが、次々と起こる超常現象と小さな町に隠された恐ろしい陰謀に立ち向かっていく。シーズン1が2016年7月、シーズン2が2017年10月、シーズン3が2019年7月に配信され、現在シーズン4の製作が決定している。劇中で絹が本作をノートパソコンで見ているのは2018年。同じ部屋でビジネス書を読みふける麦を気づかい、音が邪魔にならないようイヤホンをつけている。


趣味嗜好がドンピシャだった文学作品

【今村夏子】
本好きの麦と絹にとって、とりわけ大事な作家として劇中に何度も登場する。今村作品のなかでも2人が大好きなのが、2011年に刊行された単行本「こちらあみ子」に収録された短編「ピクニック」。お互いに、就活や仕事で相手が落ち込んでいる時、本作のタイトルを挙げて、優しく励まそうとする。2016年「あひる」と、2017年「星の子」で芥川賞候補に挙がっていた今村は、2019年「むらさきのスカートの女」で第161回芥川賞を受賞した。

【穂村弘と長嶋有】
麦と絹の本の趣味が同じだと分かる最初のきっかけになった作家たち。2015年、初対面の夜の居酒屋で、麦と絹はそれぞれが持っていた文庫本を交換。絹が麦の本を見て、「私も穂村弘、だいたい読んでます」と言うと、麦も「僕も長嶋有は、ほぼほぼ…」と応える。麦の言葉どおり、その後、絹が訪れた麦の部屋の本棚には、穂村弘の「ドライドライアイス」「蚊がいる」「絶叫委員会」や、長嶋有の「うなぎのダンス」「ジャージの二人」「猛スピードで母は」といった作品がたくさん並んでいることが分かる。

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