吉田恵輔監督の映画『空白』、スターサンズ映画祭登壇の新井英樹も激賞「不寛容さっていう地獄のループが描かれてる」
日本アカデミー賞作品賞を含む6冠を受賞した『新聞記者』(19)など骨太な作品を手掛けたきた映画会社スターサンズ。最新作は古田新太と松坂桃李が共演した吉田恵輔監督作『空白』(9月23日公開)で、本作の公開を記念し、数々のスターサンズ映画を、映画に関わった人たちと共に振り返るという「スターサンズ映画祭」がKADOKAWAシネマ有楽町で開催中だ。8月30日には『愛しのアイリーン』(18)が上映され、吉田監督、原作者の新井英樹、河村光庸プロデューサーが登壇した。
吉田監督は「この作品は、僕が映画監督になる前からずっと『いつか監督になって、俺が映画化したい』と、夢のように語っていた作品です。でも、実際が監督になってから、10年ぐらいずっと心からやりたいと、いろんなプロデューサーに言ってきたんですがガン無視されて(苦笑)。でも、河村さんがこれをやろうと言ってくれました。そういう奇跡の出会いがあったからこその今日でございます」と挨拶。
『愛しのアイリーン』は「宮本から君へ」で知られる新井英樹の人気コミックを、安田顕主演で映画化した人間ドラマ。田舎町で暮らす40代男とフィリピン人女性との国際結婚が巻き起こす騒動を描く。河村は、吉田から提案され、原作コミックを読んだそうで「僕がイメージしたのは、今村昌平監督の『楢山節考』です。この雪山のシーン、描けるかなと思ってましたが、天が味方をしたというか、長岡で撮ったんですが豪雪となり、すばらしいラストが迎えられました」と撮影を振り返った。
吉田監督も「雪が確実に降っているという条件で長岡にしたんですが、着いた瞬間、2メートルくらい積もってて、家が埋まっていて見えなくて(苦笑)。雪が弱い時にやっと撮れました」と苦笑い。また「フィリピンのパートも普通ならやらせてもらえないけど、フィリピンで撮らせてもらえました」と河村プロデューサーに感謝する。
壮絶な内容を描く原作について、吉田監督は「この漫画を連載させてくれた『ビッグコミックスピリッツ』がすごい。当時、僕は塚本晋也監督のチームにいたんですが、塚本組のなかでも話題になっていました」と言うと、新井も「綱渡りで描いていました。いつ打ち切られるわからないと。当時、『スピリッツ』の読者に、否が応でも嫌なものを見てもらおうと思って描いていたので」と語った。
続いて最新作『空白』の話題へ。本作は、吉田監督のオリジナル脚本によるヒューマンサスペンス。中学生の少女の万引き未遂事件と逃走中の不幸な死をきっかけに、追いかけた店長(松坂桃李)が、少女の父親(古田新太)による逆襲を受けていく。
河村プロデューサーは「オリジナル脚本でびっくりしました。吉田監督のコメディ的な、ちょっと世の中を斜に構えて見るような作品ではなく、真正面から見ている脚本で、すごいなと思って、早速やると決めました」と脚本段階で心を鷲づかみにされたと言う。
本作を観たという新井も「本当にすごい」と激賞し、「吉田版『スリー・ビルボード』みたいな作品だと聞いていて、観にいったら、こっちの予想を遥かに超えていた。『空白』ってタイトルの意味がおぼろげに見えてきた時、えらい感動がくる。不寛容さっていう地獄のループが描かれてるなと」と感心しきりの様子だった。
吉田監督は「『愛しのアイリーン』は夢のゴールだった。俺のなかで1個、卒業というか、夢をクリアした感じがしたので、次の目標は、自分が心のなかで抱えているものを吐き出して、自分を見つめていったらこうなりました」とコメント。
河村プロデューサーは「いままでとは違うのが自由度。不寛容を描きながらも、実に自由に、自分の世界を表現してる。社会の制約や、こういうものはマズイんじゃないかというのも隅々まで自由に描いてる。しがらみがまったくなく表現されている映画だと思います」と語り「今年おそらく、日本の映画賞をかなり席巻するのではないかと予測してます」と手応えを口にした。
取材・文/山崎伸子