“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンをライバル視していた、俳優顔負けのイケメン監督とは?
第93回アカデミー賞国際長編映画賞で、デンマーク映画として10年ぶりに受賞を果たした『アナザーラウンド』(公開中)。昨年の第73回カンヌ国際映画祭でお披露目されて以来、各国の映画祭や映画賞で激賞を浴びた本作でひときわ注目を集めているのは、デンマーク人監督として初めてアカデミー賞監督賞にノミネートされたトマス・ヴィンターベア監督だ。このたび主演を務めたマッツ・ミケルセンとヴィンターベア監督とのエピソードを独占入手した。
本作はミケルセン演じる高校教師のマーティンとその同僚たちが、「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つと仕事の効率が良くなり、想像力がみなぎる」というノルウェーの哲学者が提唱した理論を証明するために、とんでもない実験に取り組む姿を描くユーモラスな人生賛歌。仕事中でもお構いなしに酒を飲み常に酔った状態を保ったことで、授業も楽しく生徒たちの関係性も良好に。同僚たちも確実に人生が良い方向へと進もうとしていたが、徐々に制御不能になってしまい…。
1995年にラース・フォン・トリアーらとともに“ドグマ95”を発起し、その第1回作品となる『セレブレーション』(98)で第51回カンヌ国際映画祭審査員賞など国際的な賞を獲得したヴィンターベア監督。その後もデンマークを代表する監督としてコンスタントに作品を発表しつづけ、ミケルセンと初タッグを組んだ『偽りなき者』(12)ではミケルセンに第65回カンヌ国際映画祭男優賞をもたらし、第86回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。
本作で2度目のタッグとなったヴィンターベア監督とミケルセン。2人の出会いは共に駆けだしだった1990年代半ばで、当時はなぜかお互いをライバル視し、妙な自意識から牽制し合っていたという。やがてそれが若さゆえの憧れや尊敬心の裏返しであると理解し、ヴィンターベア監督はミケルセンに出演依頼する際にはきちんとした作品ではないと、と勝手にハードルを上げていってしまったのだとか。結果的に『偽りなき者』をきっかけに意気投合した2人は、いまや近所に住み、一緒にジム通いをしたり家族ぐるみの付き合いをしたりの大親友に。
近年はハリウッド映画でも大活躍中のミケルセン。『アナザーラウンド』では、そんな“北欧の至宝”の素顔をよく知るヴィンターベア監督だからこそ撮ることができたミケルセンの様々な表情をとことん堪能することができる。中年の危機に直面した冴えない姿や、血中アルコール濃度が高まった陽気な姿。そしてミケルセン自身も「監督が僕のダンスを見る言い訳として脚本に加えた」と語るキレキレのダンスシーンに至るまで。
是非とも劇場のスクリーンで、北欧デンマークの映画界が誇る名コンビが生みだした珠玉のストーリーと、ミケルセンの圧巻のパフォーマンスを目撃してほしい!
文/久保田 和馬