スナフキンは作者の恋人だった!?『TOVE/トーベ』で知る、“実在”するムーミン谷の仲間たち
まさにムーミン俳優!トーベ・ヤンソン本人との不思議なつながり
本作でトーベ役を演じたのは、フィンランドとスウェーデンの舞台で幅広く活躍しているフィンランドの新進気鋭の俳優、アルマ・ポウスティ。2014年にトーベ・ヤンソン生誕100年を記念して制作された舞台「トーベ」で若かりし頃のトーベ役を演じたほか、アニメーション映画『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』(14)では、ムーミントロールのガールフレンド、スノークのおじょうさんの声を担当するなど、以前からムーミン物語の作品に縁があった。
さらに、ポウスティの祖母ビルギッタ・ウルフソンは、1949年にヘルシンキで上演された初のムーミン劇「ムーミントロールと彗星」に出演しており、トーベとも親しく、ポウスティは子どもの頃、トーベ本人に会ったこともあるという。トーベの墓とポウスティの祖母の墓はとても近くにあり、ポウスティは本作のトーベ役を射止めた時、報告のため、墓参りをしたという。個人的にもトーベとつながりを持つ彼女は、まさに誰もが認める“ムーミン俳優”。アーティストとしてどう生きるべきかに苦悩し、愛にどこまでも忠実だったトーベを等身大で演じきった姿は、本作最大の見どころでもある。
落書きから生まれて、オペラやアニメーションへ!時代と共に進化してきた「ムーミントロール」
1920年代、子どもだったトーベが「スノーク」という壁に描いた落書きが原型と言われているムーミン。はじめの頃はいまのムーミンとは似ても似つかないおばけのような姿形だったムーミントロールは、戦争という過酷な時代を経て、いつしか風刺画家トーベのトレードマークになっていった。そして戦争が終わり、社会が変わるなかで、体型的にも性格的にも丸くかわいらしい見た目となり、イラスト、小説、漫画で人気を博していく。
劇中でもバンドラーと共に手がけた舞台の描写があったように、ムーミンの世界は舞台、映画、実写ドラマ、オペラ、パペットアニメーション、テレビアニメーションといった様々な広がりを見せている。日本で1969年と1990年の2度にわたって制作されたテレビアニメシリーズは、欧米でも放映され、世界各国でのムーミン再ブレイクのきっかけともなった。また、フィンランドのタンペレにあるムーミン美術館や、トゥルク市近郊のリゾート地ナーンタリにあるテーマパーク「ムーミンワールド」、近年は本国フィンランド以外では海外初進出となる日本の「ムーミンバレーパーク」の開園など、ムーミンは誕生から100年近く経ってなお進化を遂げ続け、世界中のファンを魅了している。
86年の生涯のほとんどを占める長いキャリアのなかで、絵画、風刺画、漫画、絵本、小説と多様な作品を生みだし続けた唯一無二の芸術家、トーベ・ヤンソン。本作が公開され、改めて彼女への注目が集まるいま、トーベの人生と知られざる創作の秘密に触れることで、ムーミンの物語にも、きっと新しい発見が生まれるはずだ。
文/石塚圭子