京都国際映画祭2021が開幕!上西雄大監督とゴリこと照屋年之監督が語る映画への情熱
「照屋監督はすごく人間を愛している優しい方だと思いました」(上西)
――上西監督は脚本を書くのがとにかく早いとか。
上西「僕は監督というよりも役者なので、僕の脚本はいわば“エチュード”です。自分がその役になった気持ちで書いていくので、ハイスピードでできあがっていきます。1人1人にこういう人間だというイメージがあるので、彼らが会話をする感じで書き進めていきます。なので、最初にプロットを考えるまでの時間は長いですが、書き始めたら早いです。『西成ゴロー』の初稿は3日かかってないですから」
照屋「すごいですね!コンビニでフルに3日働いたとしてもお給料3万ちょっとですよ。そう考えると、費用対効果がすごい。恐ろしいです!僕には絶対無理です」
――そんな上西監督が苦労されたのはアクションシーンだそうですが、確かにご自身も出演されてのシーンは大変そうですね。
上西「誰かに一度スタンドインをさせて、動きをつけていくしかなくて。自分がいないシーンだとモニターを見ながら絵面を決めていけますが、アクションだとそうはいかない。『ねばぎば新世界』の撮影は真夏に革ジャンを着てのアクションシーンでしたが、カメラマンが『いまのはちょっとダメだったのでもう一度』と何度も言うので、最後には熱中症でぶっ倒れました。本当に苦しかったので、俺は死ぬんじゃないかと思い、劇団員に遺言を伝えたくらいです(苦笑)」
照屋「そこまで追い込まれたんですか?それって、全然“ねばぎば”じゃなく、ギブアップですよ(笑)」
上西「撮影を中断し、クーラーが効いた楽屋で真っ裸になって15分寝たらすぐに復活できました(苦笑)。でも、赤井さんはすごくタフで、俺以上にアクションをこなしているのに何度やっても全然ペースが落ちないし、キレキレなんです。最後まで暴れきったあと、お疲れ様でした!と飲みにいく感じだったので、本当にカッコイイ!と感心しました」
――では、上西監督は照屋監督作『洗骨』や『演じる女』を観てどんな印象を受けましたか?
上西「照屋監督はすごく人間を愛している優しい方だと思いました。本当に愛情を持って細やかに人を見ている方だと、映画から伝わってきたんです。これまで僕も地元を撮ってきましたが、照屋監督はそこへの心の置き方がすごくおおらかですね」
照屋「作風や土地柄は、確かに全然違いますよね。沖縄はもっと穏やかですが、僕の勝手なイメージとして、西成は緊張感があって怖そうな感じがします。よく吉本の芸人さんが西成の変わった人をおもしろおかしく話したりしますが、怖いという話も聞くので、カメラを入れて大丈夫なのかなと」
上西「普通はダメなんです。でも『西成ゴローの四億円』の主題歌を歌っている『西成の神様』という西成に住んでいる歌手の方が、みんなに『映画を撮るから協力してな』と声をかけてくださったんです。普通なら、なにか言ってきそうな方々が逆に『撮影してるから入らんといて』と車を止めてくれたりもして、本当に奇跡のような現場でした」
照屋「『ねばぎば 新世界』に出てくる『串かつだるま』の会長さん、ご本人ですよね。映画に出るんだ!と驚きました(笑)」
上西「そうなんです。実は『だるま』の上山(勝也)会長はあの映画の発起人で、ボクシングの先輩である赤井さんのために映画が撮りたいと思われていたとか。それで、僕の『ひとくず』を観てくださった上山会長から『あんた、映画、撮らへんか?』と声をかけていただいたんです。赤井さんと会長の会話を聞いていると、本物の友情を感じてほっこりするんです。だからそれを映画に取り入れたいなと思い、会長にも出演してもらいました」
照屋「会長、役者としては素人のはずなのにすごくいい味が出ています。2人がそういう仲だったから、リラックスして演じられたんですね」
――お2人とも奥田瑛二さんを演出されましたが、ご一緒されていかがでしたか?
照屋「奥田さんは『洗骨』のファーストテイクでいきなり“カッコイイ顔”をされたので、カットをかけて『まだ“奥田瑛二”が残っているので消してもらっていいですか?』って言いました。そしたら『お前、誰に向かって言ってるんだ?なんて、冗談冗談』と笑われました。奥田さんは『脚本を書いたのは照屋監督だし、映画のことは監督が一番わかっているから、あなたが言うことが絶対に正しい。だから何度でも違うと思ったら言って』と言ってくださり安心しました」
――奥田さんは『洗骨』の舞台挨拶で照屋監督を絶賛されていました。また『演じる女』で主演を務めた満島ひかりさんも、奥田さんの言葉を聞いて、主演を引き受けられたと聞いています。
照屋「『演じる女』はすごく低予算の映画で、ギャラなんてほとんど払えてないんですけど、ダメもとで満島さんにオファーしたら引き受けてくれました。どうやら僕の知らないところで奥田さんが『照屋監督からオファーがきたら、絶対に断らないほうがいい』と言ってくださっていたそうで。僕が満島さんにオファーすることなんて、奥田さんはご存知なかったのに!それで無事に出演していただき、満島さんは『ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2021』で受賞もされたので、不思議ないい流れでした」
――上西監督は、奥田さんを演出しつつ、共演もされていますね。
上西「2作とも奥田さんの役は、すごい“闇”の中にいる人なんですが、『洗骨』の奥田さんのほうが体温を感じられて、温かい太陽も持っているようなキャラクターでした。きっと照屋監督は細やかな演出をされる方なんだなと思いました。すばらしいです」
僕は、奥田さんに関しては『こうしてください』とは1回も言ったことがなかったです。実は奥田さんのお芝居は、僕が書いた時のイメージとは違いました。でも、見せてもらったお芝居がそこで輝いていれば、それを受け取って、むしろ監督ではなく役者としてぶつかっていこうと思っていました。お芝居ってリアクションがリアクションを生むと思っているので、違っていても、むしろ『そうきましたか!』と喜んでしまいます」