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京都国際映画祭2021が開幕!上西雄大監督とゴリこと照屋年之監督が語る映画への情熱

インタビュー

京都国際映画祭2021が開幕!上西雄大監督とゴリこと照屋年之監督が語る映画への情熱

「僕は役者なので、演じることが一番好きです」(上西)

役者業に重みを置いてる上西雄大監督
役者業に重みを置いてる上西雄大監督撮影/黒羽政士

――では、お2人が、映画を監督する醍醐味を感じるのはどんな点でしょうか?

照屋「僕は編集です。撮影の時に接するカメラマンさんや照明さん、役者の皆さんもそうですが、己を持っているプロたちの集団なので、それぞれにこだわりがあるから現場はとてもキツイです。でも、全員が我を出しすぎると作品がごっちゃごちゃになってしまう。だから良い部分はいただきつつ、方向性が違う部分は止めないといけない。そこをやらないと編集の時、絶対後悔するので。例え現場の空気が悪くなってもぶつかっていかないとダメなんですが、かなりのストレスでヘロヘロになります。でも、撮ったものを編集し、すべてのパーツがつながった時、いままで世の中に存在しなかった物語が生まれてくる快感がたまりません」

――編集ですべてが報われるわけですね。

映画への熱い想い入れを語った2人
映画への熱い想い入れを語った2人撮影/黒羽政士

照屋「頭の中で思い描いていたものが多くの人に届くまでの過程は、自分の子どもが育っていくような感じで、かわいくてたまらないんです。その時の快感が、それでの苦労をかき消してくれるから、また次を撮りたくなる。だから僕は編集の作業が一番大好きです」

上西「僕は役者なので、演じることが一番好きで、あとのこと全部が苦痛です(苦笑)。いまお聞きしていると、照屋監督はやっぱりクリエイター気質なんだなと思いました。今度、僕を役者として呼んでください(笑)。

僕は映画を監督する場合、編集はすべて人にお任せします。もちろんここを切ってくださいといったわがままは言いますが、あとは自由にやっていただきます。編集をやっていると、ずっとそれを続けてしまうので」

照屋「それが楽しいんですよ」

赤井英和と上西雄大監督がW主演を務めた『ねばぎば 新世界』
赤井英和と上西雄大監督がW主演を務めた『ねばぎば 新世界』[c]上西雄大

上西「全然楽しくないです(笑)。だから、照屋監督はあまりご自身が出演されないんですね」

照屋「そうです。出ると演出に集中できないので。最初のころは出ていましたが、最近はまったく出てないです」

上西「だから僕は、自分が出ない作品の監督を頼まれても絶対にやらないし、自分が出ない作品の脚本もお引き受けすることはないです。また、僕にはいつもついてきてくれる劇団の仲間たちがいるので、劇団員の魅力を映像の世界で最大限に輝かせることに注力します。でも、なにより望んでいるのは、役者として演じることです。だから海外の映画祭で、いろんな賞をいただきましたが、グランプリや監督賞、脚本賞よりも、最優秀男優賞をいただけることが一番うれしいです」

――そういう意味では、やはりまったく考え方が違いますね。

照屋「僕も最初は自分が出たい人間だと思ってやり始めたんですが、撮る楽しみを味わったらそうではなくなりました。映画に関しては特に、いわゆるクリエイターとしての気持ちのほうが強くなっちゃいました。だから上西監督とは喜びを感じるポイントが全然違いますね」

粟国島に残っている風習が描かれる『洗骨』
粟国島に残っている風習が描かれる『洗骨』[c]2019「洗骨」製作委員会

上西「脚本を書かれる時も、きっと照屋監督は俯瞰でその世界を作られているんでしょうね。僕の書き方は、自分が登場人物になって人と人とのリアクションを見せていくというか、役者の表現によって物語を描いていくんです。だから僕の作品は登場人物が多いし、すごく人間くさいかもしれない」

照屋「確かに薄味のキャラクターは1人もいないですね。丼系というか、カツ丼、牛丼、親子丼みたいな」

上西「そうなんです。舞台になると、それがもっとひどくなり、まともな人は1人も出てこなくて、変人集合!みたいな感じになります」

――映画と舞台では、やはり演出の仕方も異なりますか?

上西「映画と舞台はまったく違います。舞台ではもっと笑いをとるし、お客さんがいることを想定しているから、自分の世界を作ろうというよりは、自分のなかにあるものをお客さんにどうお渡しするか、という考え方です。また、『ひとくず』は来年舞台にして上演します」

「自分が過去にエンタメで救ってもらったことへの恩返しだと思っています」(照屋)

監督業では編集作業が一番面白いという照屋年之監督
監督業では編集作業が一番面白いという照屋年之監督撮影/黒羽政士

――お2人の映画は作風やロケ地に違いはあれど、弱者に寄り添い、観終わったあと希望を感じたり、パワーをもらえたりする点が共通していると思います。そこは映画を撮るうえで意識されていますか?

照屋「僕自身、中高生ぐらいまで、エンタメで救ってもらった時って、やはり傷ついた時や悲しい時、勇気が欲しい時だった気がします。いまはコロナ禍でもありますが、世の中には常にいろんな状況の人たちが存在します。病気で苦しんでいる人もいれば、親子関係でつらい人、恋人と別れた人、悪いことに手を染めて捕まった人などもそう。だから僕の撮る映画の主人公たちは、弱者というか、なにかを抱えている人が多くて、成功者はいないんです。

でも、その人たちが映画を観終わったあとで『こんな人生だけど、明日も頑張ってもう1歩前に進んでみようかな』と思ってもらえたら本当にうれしい。だから、その想いを渡すうえで、無数の人たちを傷つけないという点も気をつけています。いわばそれは、自分が過去にエンタメで救ってもらったことへの恩返しだと思っています」

後編『西成ゴローの四億円 死闘編』も待機中
後編『西成ゴローの四億円 死闘編』も待機中[c]上西雄大


上西「僕の作品も、平和な家族の1日を撮ったような作品ではなく、なにかしら傷を負った人たちを中心に描いています。僕は人間ってどんなつらいことがあっても耐えることができると信じているので、そこを描きたくて。僕自身も割と大変な家で育ったので、つらいことがあると、おばあちゃんと映画館に行っていたんです。映画を観ると、すべてがリセットされて、映画の余韻で幸せな気持ちになれました。

映画から学んだことはたくさんあって、人生を生きていくうえで力になります。そういった意味では、自分が作る作品も、観る人にとって人生の力になれたらいいなと。その人たちの心に触れることができれば、映画を撮り続けていく意味があるなと思っています」

取材・文/山崎伸子

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