三島有紀子監督×藤原季節、『よろこびのうた』で出会った“喜び”「完成品を観ている間釘付けでした」

インタビュー

三島有紀子監督×藤原季節、『よろこびのうた』で出会った“喜び”「完成品を観ている間釘付けでした」

「できるだけ違和感のある2人にしたいと思っていました」(三島)

「もう一度ピュアに映画を作りたい」という想いを持って、プロジェクトに参加した三島監督
「もう一度ピュアに映画を作りたい」という想いを持って、プロジェクトに参加した三島監督撮影/野崎航正

――今回、三島監督のチームに参加した山嵜晋平監督(『YEN』)、齋藤栄美監督(『海にそらごと』)は助監督の経験が豊富で、加藤拓人監督(『睡眠倶楽部のすすめ』)は一般公募からの選抜です。

三島「自分自身も、演出部で『撮りたいけれど、なかなか撮れない』と悶々としている時期がありました。演出部の後輩のなかには、やりたいことも気概も力もあるけれど、機会に恵まれない演出部の方がたくさんいます。『DIVOC-12』のお話をいただいた時に、そういった後輩たちに機会をもっていただけるのではないかと感じました。

もう一つこの企画に参加しようと思ったのは、自分自身がこの時期にもう一度ピュアに自由に映画を作りたいという想いからです。『DIVOC-12』はそれができる場所でしたし、そのなかで純粋に『この人にやってほしい』と思う方たちにお声がけさせていただきました。それは今回の監督たちも、富司純子さんも藤原季節くんも同じです」

――このお2人の組み合わせが観られるのは、本作ならではですよね。すばらしい化学反応でした。

三島「できるだけ違和感のある2人にしたいと思っていました(笑)。『よろこびのうた Ode to Joy』というタイトルにも通じますが、出会うはずのないふたりが出会うことは“よろこびの瞬間”だと思います。季節くんと富司さんが出会ってくれたらいいのになと思いながら、本を書いていましたね」

出会うはずのなかった青年と孤独な女性を描く、『よろこびのうた Ode to Joy』
出会うはずのなかった青年と孤独な女性を描く、『よろこびのうた Ode to Joy』[c]2021 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.


――藤原さんは、富司さんと共演していかがでしたか?

藤原「三島監督から『もっと富司さんを感じて』と言われていたのですが、完成したものを観たら自分はまだまだ視野が狭かったと感じました。富司さんを見て『ここまで軽やかに生きるんだ』と思いましたね。今回は世界の片隅の物語ですが、懸命に生きている人はきっとその懸命さを隠すはず。もっと当たり前に生きているし、小さな喜びを感じて生息しているものなんだと、富司さんのお芝居から学びました。

例えば富司さんとの車中のシーンで、ハーゲンダッツのバーを食べるシーンがあります。そこで興味深かったのは、富司さんが袋を開けてアイスを取り出した時に、すぐかじるのではなくまず舐めるということ。細かい部分かもしれませんが、そういったところに富司さんが演じた“冬海”という人物の生活がにじんでいるんです。撮影中には僕はそこまで見えていなくて…。完成品を観ている間はずっと釘付けでしたね。富司さんではなく、冬海さんにしか見えませんでした。

三島監督、藤原が絶賛する女優・富司純子の圧巻の演技
三島監督、藤原が絶賛する女優・富司純子の圧巻の演技[c]2021 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.

三島「富司さんは撮影の前日に現地入りして、冬海さんがどういう街に住んでいるのかをご自身で見て回ってから撮影に臨んでくれたんです。そういったエピソードもそうですし、撮っている瞬間瞬間、すべてが印象に残っていますね。砂浜に横たわるシーンでも、目に砂が入ってしまい充血していても、カットがかかるまでは絶対に動かない。本当にすばらしすぎて、頭が下がります。

『焼肉食べたい』と歌うシーンがあるのですが、『体操しながら歌ってほしい』とお伝えしたら、ちょっと意外な動きを披露してくだって(笑)。生命の爆発をこういった形で表現してくださるんだと思いました。
あと、あるシーンで母性と少女性が入り混じった表情を見せてくださった時は、震えました。今回は10分に収めるために、“描かずに想像してもらう”選択をした部分も多くありましたが、表情だけで悟らせる富司さんの演技に非常に助けられ、作品を豊かにしていただきました」

藤原「本当に、すばらしかったですよね」

「公開するまで黙っていようかなと思っていたのですが…」(藤原)

三島「季節くんも歩として存在してくれていたから、演出というよりも『歩として素直に反応してくれれば大丈夫』とお伝えしましたし、信頼感がすごくありました」

藤原「三島さんはカメラを回す前から『うん、大丈夫』とおっしゃっていましたね(笑)。ちょっとびっくりしました」

三島「(笑)。私はいつも生の肉体を観るのでモニターをあまり観ないのですが、季節くんからちゃんと歩の人生が見えたんです。カラオケのシーンでも、彼は、抱えるものすごい不安や恐怖、複雑な感情を、歌という形で全部吐き出してくれましたし」

藤原は、三島監督も驚きの役作りで撮影に臨んだそう
藤原は、三島監督も驚きの役作りで撮影に臨んだそう[c]2021 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.

――カラオケのシーン、凄い迫力でした。無音ですが、全身から叫びが伝わってくるような…。藤原さんはどういった準備をして、臨んだのでしょう。

藤原「そうですね…(考え込む)。公開するまで黙っていようかなと思っていたのですが、実は僕、この役をいただいてから10日間くらい南三陸に行ったんです」

三島「えっ!そうなんだ。初めて聞いた…」

藤原「いま初めて言いました。本当に誰にも言わずに、歩が生まれ育った南三陸で過ごして、一人でカラオケをしていたんです」

三島「それであれが出たんだ…。歩が南三陸出身というのは、季節くんには伝えていましたが劇中で言及はされないんです。わざわざ行ってくださったんですね。歩の心の揺れがカラオケのシーンに出ていてすばらしかったのですが、そうした準備をされていたとは。本当にありがとうございます」

藤原「とんでもないです。監督にそう映っていたなら、本望です!」

取材・文/SYO

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