“全世界が熱狂中”の韓国ドラマ「イカゲーム」、Netflix史上最大のヒットとなった理由は?
Netflix韓国オリジナル作品「イカゲーム」(配信中)が全世界でTOP10に入り、80か国以上で1位を記録している。Netflixのホームであるアメリカのチャートでも1週間以上1位に君臨し、アジア系作品で初の快挙となった。
9月17日に全世界配信となった「イカゲーム」は、現在も日本を含む世界各国で人気が継続している。9月27日に行われたメディア業界のイベントに登壇したNetflixのテッド・サランドス共同CEO兼コンテンツ最高責任者は、「『イカゲーム』は間違いなく、英語以外の言語によるシリーズとして史上最大のヒットになるでしょう」と示唆した。
「イカゲーム」では、様々な理由でお金を必要とする総勢456名が、賞金456億ウォン(約43億円)をかけて熾烈なサバイバルレースを繰り広げる。ゲームは6つ。日本でもおなじみの「だるまさんが転んだ」(韓国語は「ムクゲの花が咲きました」)、「カルメ焼き型抜き」「綱引き」「ビー玉遊び」「飛び石ゲーム」、そしてタイトルになっている「イカゲーム」は、韓国の子どもたちが遊ぶ鬼ごっこのようなゲームだ。
『新しき世界』(13)やドラマ「補佐官〜世の中を動かす人々〜」のイ・ジョンジェが扮する、離婚や借金で金の工面が必要なソン・ギフンは、謎の男に突然メンコ対決を申し込まれる。彼は巨額の賞金を賭けた、生きるか死ぬかのサバイバルゲームのリクルーターで、ギフンのような訳あり人物があと455人集まっていた。そのなかには、「刑務所のルールブック」のパク・ヘスが扮する幼なじみで証券会社に勤めるチョ・サンウや、脱北者のセビョク(チョン・ホヨン)らがいる。生きて大金を持ち帰るには、彼らを皆殺しにしなくてはならない。
ストーリーは至ってシンプルなサバイバルゲームだが、第1話の「だるまさんが転んだ」で、牧歌的な風景に似つかわしくない惨劇が起きる。ルール通り、巨大な人形が振り向いた際に動いた者は銃で撃たれ脱落となる。時間制限内にゴールできた者が第2ゲームに進むことができ、1人脱落するごとに1億ウォンが豚の貯金箱にプールされ、最後の1人が総額を得る。参加者の過半数がゲーム中断を民主的に判断するとゲームオーバー、脱出はできるが賞金は脱落者家族の手に渡る。それらがカラフルでポップなセットデザインのなかで繰り広げられるのだから、最高にシュールだ。
海外での人気は、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(19)が外国語映画として初めてアカデミー賞作品賞を受賞したことが引き金となり、韓国コンテンツへの絶大な信頼につながったことに起因する。そのうえ、Netflixのトップ画面に現れるポップなロゴとビジュアル、さらには早々と鑑賞した人たちの「おもしろい!」という口コミが爆発的人気に火をつけた。緑ジャージのゲーム参加者とピンクのスーツに○△□のお面をつけた管理者のビジュアルも、SNSで拡散されるミームにぴったりだった。アマゾンの共同創設者のジェフ・ベゾスがNetflixのCEO二人にお祝いのツイートをしたり、タイカ・ワイティティ、バリー・ジェンキンス、マイケル・フラナガンなどの映像クリエイターも、『イカゲーム』を視聴したとツイッターにアップしている。
こうして世界中が「イカゲーム」の虜になったわけだが、この残虐で血みどろのドラマは一見シンプルに見えて、多くの暗喩を含んでいる。6つあるゲームはどれも子どもの遊びだが、命と大金をかけた勝敗に様々な人間ドラマが描かれる。彼らが金を必要とする理由、生き残らなければならない理由は、そのまま現代社会の写鏡のように複雑でやるせない。456人いれば、仲間割れや愛憎、騙し合い、またその逆も起きる。特に6話のノスタルジックな横丁で行われるビー玉遊びに、「人間とは…」と思わず考え込んでしまう。
監督、脚本は『トガニ 幼き瞳の告発』(12)、『怪しい彼女』(14)のファン・ドンヒョク。ソウル大学卒業後にアメリカの南カリフォルニア大学で映画制作を学んだ国際派で、「イカゲーム」の企画は2008年ごろからあたためていたものだという。サバイバルゲームのリクルーターとゲームを指揮するフロントマンに、あっと驚く有名俳優のカメオを配しているところも、韓国映画ファンのツボをついている。韓国ドラマらしく、黒幕やフロントマンの存在をめぐり周到に配置された伏線を読み解く楽しみ方もある。各エピソードのクリフハンガーが絶妙で次から次へと一気見してしまい、気がつくと全9話を完走していることだろう。
「イカゲーム」の人気は、韓国ドラマ一見さんからヘヴィユーザーまで取り込む包括的なコンテンツ作りにある。目を引くビジュアルやポップな世界観で間口を広げ、サバイバルゲームそのものだけでも十分楽しめるうえに、よく練られた脚本とキレのある演出、細かなキャラクター設定、俳優陣の高い演技力が韓国ドラマを観慣れたコアなファンをも満足させる。百聞は一見にしかず。ゴア描写やデスゲームに耐性があるのならば、まずは1話を視聴してみることをお勧めする。
文/平井伊都子