「孤狼の血」は日本映画界に前例のないシリーズとなるか?白石和彌監督が“続編”を作る意義【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】
宇野「実はこの連載、別に意識してきたわけじゃないんですけど、これまでほとんどの監督が自身で脚本も書かれる監督だったんです。日本映画で作家性の強い監督に話を訊くとなると、どうしてもそうなる傾向がある。その点、白石監督も作家性はかなり強い監督だと思いますけど、脚本は共同脚本もあるものの、基本、監督に専念することが多いですよね。今回の『孤狼の血 LEVEL2』も、前作に続いて池上純哉さんが脚本を手掛けていて」
白石「それについては、単純に時間の問題もあります。本数が多いので――本当はこうなるつもりもはなかったんですけど(笑)――脚本を書いたり、ほかの方と一緒に脚本の作業をしたりする時間がなかなか作れないというのが現状で。池上(純哉)さんとは、『日本で一番悪い奴ら』からコンビを組んでいて。お互いやりたいこともだいぶわかってきているんで、ほぼほぼ今回は手を入れなかったですね」
宇野「池上さん、白石監督以外のヤクザものとしては西谷弘監督の『任侠ヘルパー』の脚本とかも書かれていて、今回も実質的にはほとんどオリジナルですし、かなりすごい方なんじゃないかと気になってるんですが、あまり情報がないんですよね」
白石「ほとんどメディアとかに出ないですしね」
宇野「そうなんですよ。池上さんは、もともとは助監督をやられていた方なんですよね?」
白石「僕よりちょっと先輩なんですけど、高橋伴明監督の助監督をやっていて、その時代からお互い知っていて。映画的インテリジェンスがすごい高い方で。監督も昔、Vシネを何本かやったりしているんですよね。いまのC & I entertainment、当時はIMJ Entertainmentっていう会社が『ジョゼと虎と魚たち』とか『NANA』とか作っていた時期に、そこの企画開発部みたいなところに池上さんも僕も2年ぐらいいたんです。そこには(『サニー/32』や『ひとよ』の脚本家の)高橋泉くんとかもいて、そこで結構濃い関係性ができたんですよね」
宇野「へえ!じゃあ、みんな30代くらいの時の、まだくすぶっている同士の仲間みたいな?」
白石「まさにそんな感じです」
宇野「それがいまや、皆さん日本映画のキープレイヤー的存在になってるという。白石監督は、公開作の数は一時期に比べたらちょっと落ち着いてきた印象があるんですけど、やっぱり水面下では相変わらずという感じなんですか?」
白石「仮面ライダー(『仮面ライダーBLACK SUN』)をやることになったので…。特撮って、こんなに作業量が多いんだ、と愕然としてますね(笑)」
宇野「そっか(笑)。以前お会いした時にも同じ話になったと思うんですけど、現在40代半ばで、走れるうちは当分このまま走ろうという感じ?」
白石「そうですね。やりたくない映画をやることはないんで。提案を受けて、やりたい作品をやってるとこうなってしまうという感じですね」
宇野「白石監督自身は若松プロダクションでの仕事から映画の世界に入って、監督になってからも独立系のプロダクションで数多くの作品を作ってきたわけですけど、この『孤狼の血』シリーズに関しては作品の内容的にも、制作環境的にも、“東映の作品”というところがすごく大きいですよね?」
白石「東映さんって、プロデューサーの人たちも現場の人たちも、ほかのメジャー系の映画会社とはちょっと毛色が違うというか。“映画屋”感がまだ残っているんですよね」
宇野「それは“良くも悪くも”ですか?それとも“良くも良くも”?(笑)」
白石「“良くも悪くも”ですね(笑)」
宇野「具体的に、いまなお変わらない“東映イズム”みたいなものはどういうところに感じますか?」
白石「難しい質問ですね(笑)。一つの観点でいうと、今年は藤井道人監督の『ヤクザと家族』とか西川美和監督の『すばらしき世界』とか、ヤクザや元ヤクザ を題材にしたすごくよく出来た作品が公開された年でもあったと思うんですが、そこではヤクザの人権の問題だとか、世間に受け入れられない感じだとか現代社会での生き辛さみたいなものを描いていたじゃないですか。でも、そういうのは東映で作る映画ではないと思うんですよね」
宇野「現代と近過去を舞台にするのでは当然描写の仕方も違ってくるでしょうけど、そうかもしれないですね」
白石「今回の『孤狼の血 LEVEL2』に対しても、『リアリティを感じなかった』とか『あんなヤクザいねえよ』とか言われることがあるんですが、そこはあんまり自分は気にしてないんですよ。同時代でも、韓国ではリアリティなんて関係なくもっとハードな作品を作っているわけじゃないですか。そういうノワール感みたいなものは映画文化として残っていてもいいものだと思いますし。僕の育ちでいうと、当然、『孤狼の血』の企画を最初にいただいてから、深作(欣二)作品を見直したりもしましたけど、どちらかというと東映ビデオを中心とするVシネマのヤクザものが近いものとしてあって。それこそ(高橋)伴明さんとかの作品もそうですけど、記憶としてVシネのいろんなシーンが自然と頭の中に浮かんでくる」
宇野「そういう意味では、当時のVシネで仕事をしていた池上さんが脚本を手掛けているのは必然でもあるんですね」
白石「そうですね。いずれにせよ、『東映で映画を撮る』となった時に、そこがこれまで作ってきた作品とまったく関係なく作るっていうのは違うと思って。『東映でヤクザ映画を撮る意義ってなんなんだろう?』ということはものすごく考えてきました。先ほど、かたせ梨乃さんの名前を挙げてくれましたけど、『孤狼の血 LEVEL2』は時代設定的に言うと、完全に『極妻』の時期と重なっていて。当然、ファッションとか、美術とか、いろんなものを勉強するにはすごく参考になりましたしね。『極妻』も、実は結構ファンタジーなところがあるんですが、そういう部分も含めて東映のヤクザ映画だと思うので」
宇野「では、まだ“映画屋”感が残ってる東映の“良くも悪くも”の“悪くも”なところは?」
白石「“悪くも”ってわけじゃないんですけど、『四の五の言わずに映画作ったらええんや!』みたいな感じはありますよね(笑)。映画って結局は博打を打つ作業だと思うんですけど、その博打を打つ感じがまだ濃厚に残ってる。それは『孤狼の血』シリーズの紀伊(宗之)プロデューサーや天野(和人)プロデューサーにもあって、そういう“アカンやつら”を会社としてバックアップしてくれているのを現場では日々感じます。コロナで軒並み映画の撮影をストップしていたなかで、東映さんだけ『樹海村』と『孤狼の血 LEVEL2』をなんとか撮ろうといろいろ対策しながら動き続けていて。『映画会社なんだから、映画作らないでなにやるの?』みたいな感じが、すごく残っている」
宇野「話を聞いていると、あまり“悪くも”って感じはないですけど(笑)」
白石「“悪くも”は…いろんな計算がまるっとしているところですかね。いろんな意味で、ざっくりしすぎてるっていうか(苦笑)」