志尊淳『人と仕事』を通じ、コロナ禍を生きる人々へ心からのメッセージ「人と人とのコミュニケーションがあって成り立つ映画」
俳優の志尊淳が、10月9日にヒューマントラストシネマ渋谷で行われたドキュメンタリー映画『人と仕事』の公開記念舞台挨拶に出席。「一人じゃない。皆さん、どうか、どうか生きてください」とコロナ禍を生きる人々にメッセージを送った。
本作では有村架純と志尊が役ではなく、そのままの“自分”としてスクリーンに登場。コロナ禍の日本で働く保育士や農家などの職業に就く人々を訪ね、体験し、職場が直面する数々の問題に触れていくことで、現代社会の陰影を浮き彫りにするドキュメンタリーだ。『新聞記者』(19)、『空白』(公開中)など話題作を世に送りだしているスターサンズの河村光庸が企画を務めている。舞台挨拶には、森ガキ侑大監督も登壇した。
もともとは同じチームで劇映画を制作する予定だったが、新型コロナウイルス感染症の拡大に断念せざるを得ない状況となり、河村プロデューサーのアイデアにより、監督、俳優はそのままに現在の日本を探るドキュメンタリー映画へシフトした。その提案を受け、森ガキ監督は「できるのかなという不安はあった」と明かしつつも、「コロナ禍での映画という企画。いましか絶対にできないし、いま残さないと絶対に後悔すると思って、本能的に『やらせてください』と返事をしました」と強い気持ちを持って撮影に臨んだという。
「劇映画がなくなってしまったということにショックな部分もあった」という志尊は、「僕らだけじゃなくて、大事な行事がなくなったりとかしていらっしゃる方もいる。そこでなお、作品を届けられるという機会をいただけたことはありがたいこと」としみじみ。「人と人とのコミュニケーションがあって成り立つ映画。筋書きもないなか、自分はどれだけいろいろな人に寄り添えるのかなという不安もありましたが、皆さんと同じベクトルを向くことができた。僕も監督もなにをしたらいいかわからない状況だったけれど、とにかくやれることをやってみようということだったので、できる限りのことはやりたかった」と体当たりで挑んだことを明かした。
あらゆる人のもとを訪ねるなかでは、有村と共に農業体験もしたそうで、志尊は「この(仕事)量を一人でやってくださっている方々がいるから、自分は食事をとれるんだとありがたみを感じた」という。「コロナ禍で野菜が余ってしまったり、届け先が見つからないけれど、準備して作ったものをただただ出荷するんだというお話を聞いて。そうやってまっすぐやり続けてくださる方がいるからこそ、普段の日常の生活ができている。それって『言われなくてもわかるよ』と思うことかも知れないけれど、改めて体験することで感じた部分が強かった」と語る。
最後には「いま制作することができて、自分のなかで誇りに思える作品になった」と胸を張った森ガキ監督。志尊は「僕自身、いろいろな方とお会いしなければわからなかったこと、知らなかったことがたくさんあった。それを共有できるだけでも、少し楽になるかもしれない。一人じゃないし、いろいろな悩みを抱えている人、それでも頑張って生きている人たちがたくさんいる。僕もその一人。この作品を観ていただいて、そういったことを共有できたことが幸せなこと。コロナもそうですし、地震や災害もありますが、皆さん、どうか、どうか生きてください」と心からのメッセージを送っていた。
取材・文/成田おり枝