衝撃の真実にたどり着け!新感覚スリラー『アンテベラム』が緻密に仕掛ける“本当の恐怖”
作品に込められたメッセージを確固たるものにする、ジャネール・モネイという才能
さて、ホラー/スリラー映画といえば、かつては無名の新人俳優&監督の登竜門的存在で、低予算で量産されていた。だが、最近のこのジャンル映画は、プロデューサー主義とでも言おうか、プロデューサーがヒットメーカーということが多い。しかも、A級、もしくは芝居に定評がある俳優を起用し、監督には各映画祭で話題を呼んだ作品を手掛けている者を採用。よって、バジェットもそこそこ高く、質の良い作品が作られるようになった。
本作も監督は新人ながら、プロデューサーは『ゲット・アウト』でジョーダン・ピールを見いだしたチーム。主人公のヴェロニカ役は『ムーンライト』(16)などでの好演で知られるジャネール・モネイが務めている。彼女はアーティストとして成功を収める一方、2015年以降は俳優業にも力を入れ、精力的に映画やドラマに出演。音楽シーンにおける活動とフィルモグラフィをみれば明らかなのは、黒人や女性の人権活動への支持はもちろんのこと、性的マイノリティのコミュニティも支持し、社会的に弱い立場にある人々との連帯を訴えていることだ。
このスタンスを表明する映画人は、いまでは珍しいことではなくなったものの、彼女のように活躍の場が多岐にわたり、あらゆるチャンネルで発信力を持つ人はそう多くない。それだけに、彼女の俳優業の作品選びは先々への影響を考えて練られたものばかりだ。人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカを舞台に、NASAの黒人数学者たちによる活躍を描いた『ドリーム』(17)や、奴隷制度真っただなかの19世紀アメリカで伝説的な存在となった実在の黒人女性を描いた『ハリエット』(19)など。こうして並べてみれば、本作も単なる娯楽作としてだけでなく、これらの作品の系譜を引き継いだテーマが隠されていることは、想像に易いだろう。