衝撃の真実にたどり着け!新感覚スリラー『アンテベラム』が緻密に仕掛ける“本当の恐怖”
光の明暗を絶妙にコントロールした圧倒的な映像美
それと共に、本作を含めたこれらの作品に共通するのは、圧倒的に美しい映像だ。このジャンル映画では、物理的な闇があればいい、というのはもう古い。闇はもちろん、それと対照的に光と明るさをうまくコントロールすることに長けていないと、良作として成立しない。
本作では、NYとニューオーリンズが舞台になっており、本来であれば暗い大都会と大自然広がる明るいルイジアナ州という対比がされそうなところ、それがまったく逆転。社会学者として大成功を収めているヴェロニカの拠点であるNYは、幸せに満ちた明るい映像で、彼女が「よそ者」として扱われるニューオーリンズはおもにホテル内と夜のシーンで、先行きの不安を感じさせる暗さで対比している。この明度のコントロールが、ストーリーを暗示するものとなり、ヴェロニカが何者かに拉致される中盤以降を、より不安なものとして見せることに成功している。
いささか小難しく解説してしまったが、本作の恐怖、ヤバさは、観た者だけが共有できる特別なもの。「成功した黒人女性が拉致されてしまう」「謎の組織を感じさせる」など、興味をそそるキーワードは数多くある作品だが、本当の恐怖はそんなものではない、ということだけ心に留めておいてほしい。
文/よしひろまさみち
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