トマト、ドーナツ、タイヤ、ジーンズ…思わぬモノが人を襲う!Z級ホラーで描かれてきたトンデモ殺人鬼たち

コラム

トマト、ドーナツ、タイヤ、ジーンズ…思わぬモノが人を襲う!Z級ホラーで描かれてきたトンデモ殺人鬼たち

ファンタスティック映画の祭典として名高いスペインの「シッチェス・カタロニア国際映画祭」から厳選された6作品を上映する「シッチェス映画祭ファンタスティック セレクション2021」が現在開催中。ホラーを中心にユニークな作品がラインナップされているが、なかでもぶっ飛んでいるのが『キラー・ジーンズ』(公開中)だ。

人間の血をうれしそうにすすったりもする(『キラー・ジーンズ』)
人間の血をうれしそうにすすったりもする(『キラー・ジーンズ』)[c]10619248 CANADA INC. / EMAFILMS 2019

ジーンズが人間を殺しまくっていくという、タイトルからネタバレ全開なところもご愛嬌の本作。振り返ってみれば、あんなモノやこんなモノが人に襲いかかるというホラーは数多く作られてきた。ということで、そんな想像の斜め上を行きまくる愛すべき作品を紹介していきたい!

シリーズ化&テレビ版も作られた元祖トンデモ殺人鬼は…トマト!

巨大トマトがゆる〜く人々に襲いかかる!(『アタック・オブ・ザ・キラートマト』)
巨大トマトがゆる〜く人々に襲いかかる!(『アタック・オブ・ザ・キラートマト』)写真:EVERETT/アフロ

まず、この手の作品のなかでもカルト的な人気を誇るのが『アタック・オブ・ザ・キラートマト』(78)だ。のちにシリーズ第4弾まで作られただけでなく、テレビアニメにゲームまで作られてしまった、まさにキラーコンテンツ(?)だ。

物語は、秘密裏にアメリカ軍が開発していた巨大トマトが、突然変異によって全国各地で人を襲うようになり、事態が明るみになるのを恐れた政府は隠蔽を試みるが…とまあそんな感じだ。血まみれの死体が見つかったかと思えば、血ではなくてトマトの果汁だったりと、どこまでもアホくさいギャグが満載。コマ撮りで表現されたトマトの食人描写や、コロコロと転がりながら人間に襲いかかるなんとも牧歌的なシーンまで、悲しいかなホラーのクセになんとも和んでしまう1作だ。

襲いかかるトマトがなんともかわいらしい『アタック・オブ・ザ・キラートマト』
襲いかかるトマトがなんともかわいらしい『アタック・オブ・ザ・キラートマト』写真:EVERETT/アフロ

しかしそんなかわいさとは裏腹に、実は銃弾が効かない屈強な殺人トマトたち。その意外な弱点とはいったい…!?。なお続編の『リターン・オブ・ザ・キラートマト』(88)では、音楽の力によってマッチョマンに変身する殺人トマトの改良版が登場するなど、よりどうかしている展開となっているのでこちらもおススメだ。

牙が生えたドーナツが人間を襲う姿はなんともシュール!(『アタック・オブ・ザ・キラー・ドーナツ』)
牙が生えたドーナツが人間を襲う姿はなんともシュール!(『アタック・オブ・ザ・キラー・ドーナツ』)[c] Level 33 Entertainment /Courtesy Everett Collection


また、ギリシャ料理のムサカが人を襲う99年の『アタック・オブ・ザ・ジャイアント・ケーキ』(ムサカの知名度が低くい日本ではケーキという邦題が付いている)や、牙の生えたドーナツたちが宙を舞いながらが人間に襲いかかる『アタック・オブ・ザ・キラー・ドーナツ』(16)など、定期的にフォロワーが作られており、『アタック・オブ・ザ・キラートマト』の影響力の大きさを感じずにはいられない。

タイヤが人間たちを〇〇で次々に爆殺していく!

車が変形してく様子も楽しい『クリスティーン』
車が変形してく様子も楽しい『クリスティーン』[c]Columbia Pictures/courtesy Everett Collection

食べ物と比べてしまうと、幾分あり得そうと思えるのが、車が人に襲いかかるというパターンだ。77年の『ザ・カー』をはじめ、ジョン・カーペンターが監督をした『クリスティーン』(83)など、邪悪なものが乗り移って暴走自動車となる作品は、多くの良作が作られてきた。

人間の頭を破裂させて殺すロバートに警察は手も足も出ず…(『ラバー』)
人間の頭を破裂させて殺すロバートに警察は手も足も出ず…(『ラバー』)[c]Magnet Releasing/Courtesy Everett Collection

そんな殺人カーものの派生と言えるようなトンデモ作品が、その名も『ラバー』(10)。車が襲いかかるのでなく、タイヤが人を殺すというホラーコメディとなっている。なぜか命が宿ってしまった、砂漠に捨てられた1本のタイヤ。なぜかロバートと名前が付いているそのタイヤ君は、嬉々としてビニール袋や小動物を轢き潰していたが、どんどん大物をねらうようになり、終いにはその矛先が人間に向けられてしまう。

『ラバー』では、砂漠を舞台にタイヤのロバートが人に襲いかかっていく
『ラバー』では、砂漠を舞台にタイヤのロバートが人に襲いかかっていく[c]Magnet Releasing/Courtesy Everett Collection

タイヤということで転がって人を襲うのかと思いきや、なぜか途中からテレパシー能力が使えるようになり、念じることで物や人を木っ端微塵にしてしまうという、『スキャナーズ』(81)的な殺人方法に意表を突かれる本作。殺人タイヤがコロコロ転がりながら、行く先々で人を殺していく姿はなんともシュールだが、脳ミソ破壊描写などはしっかりとグロテスク。カンヌ国際映画祭の批評家週間で公開されたほか、シッチェス映画祭で3部門受賞するなど評価も高い1作だ。

コタツ、コンドーム…まだまだあるぞ!

『キラーコンドーム』にはH・R・ギーガーなどビッグネームも名を連ねているから驚きだ
『キラーコンドーム』にはH・R・ギーガーなどビッグネームも名を連ねているから驚きだ[c] Troma Entertainment /Courtesy Everett Collection

さらには、よりZ級感が強い作品では、ドイツ産ホラーコメディ『キラーコンドーム』という作品も作られている。本作はタイトル通り、縁の部分から牙が生えそろった殺人コンドームが、人間に襲いかかるという内容。ホテルで配布されているコンドームが男性の局部に襲いかかるという事件が発生し、刑事が捜査を進めていくと、ある思想に基づき殺人コンドームを生みだしている人物の存在が浮かび上がる。

トロマがアメリカで配給していることからもわかるように、下品なブラックユーモアが炸裂している本作だが、『エイリアン』(79)で知られるH・R・ギーガーがクリーチャーデザインを、『ネクロマンティック』(87)のユルグ・ブットゲライトが特撮を担当していたりと、なにげに豪華な作品だ。

履くだけで人にフィットするという新作ジーンズによる惨劇が描かれる『キラー・ジーンズ』
履くだけで人にフィットするという新作ジーンズによる惨劇が描かれる『キラー・ジーンズ』[c]10619248 CANADA INC. / EMAFILMS 2019

日本からもコタツが人を襲う『バトルヒーター』という映画が1989年に作られていたりと、食べ物から家電まで、殺人モンスターとなる題材はなんでもあり。その系譜を継ぐ最新作が『キラー・ジーンズ』だ。履いた人の体にフィットするというバカ売れ必至の新作デニム「スーパーシェイパーズ」。いよいよ発売という時に突如、ジーンズが客や店員を次々と襲いだしてしまう。


【写真を見る】首を締めたり、脚を折ったり…ジーパンの人殺しテクが鮮やかすぎる!
【写真を見る】首を締めたり、脚を折ったり…ジーパンの人殺しテクが鮮やかすぎる![c]10619248 CANADA INC. / EMAFILMS 2019

殺しのアイデアもユニークで、まるで脚で関節技をかけるように首に巻きついたり、履いた人の腰を噛み切ってしまったり、脚をあらぬ方向に曲げてしまったり…さらにはファスナーで指を切断したりと、ジーンズの特徴をこれでもかと使い尽くした殺しは鮮やか!それでいてなぜジーンズが人を襲うのか、その理由が意外と社会派だから侮れない。

「シッチェス映画祭ファンタスティック セレクション2021」において、ひときわトンデモない本作をぜひ劇場でチェックしてみてほしい。

文/サンクレイオ翼

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