映画館で体感してほしい“魂”が震えるパフォーマンス!『リスペクト』の魅力を徹底解説

コラム

映画館で体感してほしい“魂”が震えるパフォーマンス!『リスペクト』の魅力を徹底解説

劇場でこそ観るべき、ジェニファー・ハドソン渾身の歌唱

さて、ここからはアレサの楽曲が劇中でどう作用しているかに触れよう。アレサが南部のスタジオでレコーディングした「貴方だけを愛して」は、言うまでもなく当時の夫テッドに向けて歌ったナンバーだ。が、レコーディングに同行したテッドは人種差別意識がまったくない白人のバックミュージシャンといがみ合うことになる。百戦錬磨の彼らは、泥臭いソウルのフィーリングを熟知する腕利きのミュージシャンであるにもかかわらず、だ。そんな夫とは裏腹に、アレサは彼らに共鳴し、ミュージシャン同士の絆を築いていく。この時点で、結婚生活の破綻は匂わされていたのだ。

才能あるミュージシャンたちとの交流を通じ、自身を高めていくアレサ
才能あるミュージシャンたちとの交流を通じ、自身を高めていくアレサ[c] 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

リスペクト」と「シンク」は、そんな夫に対する主張を歌ったナンバーだ。自分に“敬意”を払ってほしい、と歌われている前者はオーティス・レディングのヒット曲のカバーだが、アレサはこの曲を女性視点に置き換え、完璧なまでに自分の持ち歌に変えてしまう。1967年にリリースされたこの曲は、結果的にオーティスのオリジナルバージョンをしのぐヒットとなったばかりか、アレサ初の全米チャート、No.1に。劇中でテッドを見据えてコンサート時に歌われる後者は、“自由”が欲しいと歌う強力なビート・ナンバーだ。話はそれるが、「シンク」はアレサが出演した1980年の映画『ブルース・ブラザース』の劇中でも歌われており、このときも劇中の彼女はダメ亭主を叱りつけるような熱唱を聴かせている。

しかし、なんといってもハイライトは、クライマックスで歌われる「アメイジング・グレイス」だ。先に述べたとおり、1972年にリリースされた「至上の愛〜チャーチ・コンサート〜」はアレサのルーツであるゴスペルに立ち戻ったライブ・アルバムで、この曲はとりわけ名演と言われている。結婚生活が破綻をきたし、自分を見失ってしまった彼女はクリーブランド師を訪ね、いまやりたいことを申し出る。それがクリーブランド師が進行を務め、ニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で行なわれたゴスペル・コンサートだった。いや、厳密には“コンサート”ではない。教会で行なわれる以上、それは“礼拝”だ。
またも話は逸れるが、この時の模様を記録したドキュメンタリー映画『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』(18)は彼女のすばらしい歌唱が聴けるので、こちらもぜひチェックしてほしい。

クリーブランド牧師の教会で行われたゴスペル・コンサートはドキュメンタリー映画化もされた
クリーブランド牧師の教会で行われたゴスペル・コンサートはドキュメンタリー映画化もされた写真:EVERETT/アフロ


映画『リスペクト』ですごい!と思わざるを得ないのは、アレサ役を演じたジェニファー・ハドソンの歌唱力だ。ミュージカル映画『ドリームガールズ』(06)でソウルフルなボーカルを聴かせてアカデミー助演女優賞を受賞した彼女がアレサを演じるのは、より大きなチャレンジだった。注目すべきは、本作の企画がスタートした際に、生前のアレサがハドソンを推薦したこと。クイーン・オブ・ソウルがお墨付きを与えたシンガーが主演を務めるのだから、これほど名誉なことはない。残念ながらアレサは、この映画を観ることがないまま世を去った。が、ハドソンの演技、そして圧倒的な歌唱力はそのスピリットを確実に継承している。

これほどの熱唱を、音楽を題材にした伝記映画で体感することは、めったにない。『ボヘミアン・ラブソディ』にしても歌唱シーンはリップシンクだった。しかし、『リスペクト』では、主演女優が全身全霊を込め、アレサが憑依したかのように歌う。これはまさに大スクリーンで、壮絶な伝記ドラマと共に、大音量で体感すべき作品。魂を揺るがす稀有な体験を、ぜひ映画館で堪能してほしい。

文/相馬学

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