映画館で体感してほしい“魂”が震えるパフォーマンス!『リスペクト』の魅力を徹底解説|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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コラム 2021/11/23 16:30

映画館で体感してほしい“魂”が震えるパフォーマンス!『リスペクト』の魅力を徹底解説

ポピュラー・ミュージックのカリスマを主人公にした伝記映画として、『ボヘミアン・ラプソディ』(18)に勝るとも劣らない感動と熱狂を体感させる映画として話題を呼んでいる『リスペクト』(公開中)。“クイーン・オブ・ソウル”の異名をとる天才的な黒人女性シンガーソングライター、アレサ・フランクリンの若き日を題材にとり、成功と挫折、復帰までの劇的なサクセスストーリーはもちろん、彼女がプライベートでどんなことと闘ってきたかを浮き彫りにするドラマは、音楽ファンのみならず広い観客の支持を集めている。そんな本作の見どころを改めてたどってみたい。

『リスペクト』は公開中
『リスペクト』は公開中[c] 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

父や夫からの支配に苦しんだ、キャリアスタート時代

まず、アレサ・フランクリンについて基本的なことを押さえておこう。1942年にアメリカの黒人教会の家に生まれた彼女は、牧師である父に歌の才能を見出され、黒人のキリスト教信者が神を讃える歌=“ゴスペル”のシンガーとして、幼い頃から教会で歌い始める。14歳でレコーディング歌手としてデビューしてゴスペルを歌い、その後メジャー・レーベルとの契約にこぎつけるが、当初は白人受けしそうな曲ばかりをあてがわれ、ヒット曲に恵まれなかった。転機は1966年、アトランティック・レコード移籍時に訪れる。ゴスペルやブルースのフィーリングをバラードに込めた「貴方だけを愛して」がビルボードのR&Bチャートの1位となり、アレサの快進撃が始まった。ヒット曲を連発し、1972年にリリースされたライブ・アルバム「至上の愛〜チャーチ・コンサート〜」はキャリアハイの売り上げを記録する。

アトランティック・レコードに移籍した1966年頃のアレサ・フランクリン
アトランティック・レコードに移籍した1966年頃のアレサ・フランクリン写真:EVERETT/アフロ

映画で描かれるのは、ここまでのアレサの半生だが、以後も彼女は音楽シーンの一線で活躍を続け、1980年代にはワム!のジョージ・マイケルとデュエットした「愛のおとずれ」を米ヒットチャートのNo.1の座に送り込む。ジミー・カーター、ビル・クリントン、バラク・オバマの合衆国大統領就任式典に招かれ、熱唱を聴かせたが、3度もこの式典で歌ったシンガーは米国史上、彼女のみ。新しいファンが付く度に圧倒的な歌唱力は高く評価され、その音楽活動は2018年に76歳で亡くなるまで続いた。

映画『リスペクト』の物語に話を戻そう。映画は10歳のアレサ(スカイ・ダコタ・ターナー)のドラマから始まる。牧師である父(フォレスト・ウィテカー)は人々の尊敬を集めていた。が、父と母は不仲で別居状態。母と過ごす時のアレサは穏やかで、一緒にピアノを弾きながら歌うのが大好きだった。一方で、父と過ごす時は違う刺激があった。教会の巡回礼拝で、大人たちにチヤホヤされながら歌うのは大きな喜び。それは大人の世界の仲間入りを果たした時間でもあったが、そこに責任が伴うと知るには、アレサはあまりに若すぎた。

幼少期から類まれなる歌唱力を持ち合わせていた
幼少期から類まれなる歌唱力を持ち合わせていた[c] 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

母の死後、その悲しみを引きずるアレサを、父は“いつまでもメソメソするな!”と叱りつける。そんな彼女を、父の友人ジェームズ・クリーブランド牧師(タイタス・バージェス)はピアノを弾き、一緒に歌いながら慰め、励ます。クリーブランド牧師は、スターとなったあとのアレサにも道を指し示す存在となるのだが、それはまだ先の話だ。

アレサ(ジェニファー・ハドソン)は10代後半で、父の巡回礼拝のスター歌手となっていた。後に公民権運動の指導者として知られるようになる父の友人、マーティン・ルーサー・キング牧師とも交流し、人種差別の現実も吸収していく。一方で、アレサはティーンエイジャーらしく、テッド・ホワイト(マーロン・ウェイアンズ)というハンサムな青年と恋に落ちる。チャラいテッドとの交際に父は猛反対するが、アレサは父への反発心も手伝い、テッドと結婚。テッドは、この後、アレサのアーティスト・マネージャーの座を務めるが、これは父を激高させ、父と娘はしばらく絶縁状態となってしまった。

先に述べたように、アレサのレコーディング・アーティストとしてのキャリアは不遇から始まった。レコードを出しても売れない。こうなるとテッドとの関係も悪化し、彼はアレサに暴力を振るうようになる。その度に実家に帰っては父と和解するが、アレサのレコードが売れ始めると、またもテッドのもとに戻ってしまう。テッドはますます彼女に対して支配的になり、レコードが売れれば売れるほど、アレサを締め付けていく。

スターへの階段を駆け上がっていくアレサだが、夫テッドによる抑圧も強くなっていく
スターへの階段を駆け上がっていくアレサだが、夫テッドによる抑圧も強くなっていく[c] 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.


ここまで映画を見進めた時、観客はあることに気づくだろう。アレサはテッドと結婚する以前に、すでに2人の子どもの母親になっていた。映画では具体的に描かれていないが、アレサの伝記本「アレサ・フランクリン/リスペクト」によると、最初の出産は12歳の時で、2度目の出産は15歳。歌手活動で忙しいアレサに代わり、彼らはアレサの祖母のもとで育てられた。ならば、その子どもたちの父親は誰なのか?

このエピソードは映画の肝となる部分なので詳細は省くが、1950~60年代のアメリカには人種差別だけでなく、性差別が根強くはびこっていたという事実は踏まえておきたい。ストーリーをざっと追っただけでも、アレサは支配的な父に反抗し、暴力的な夫テッドに反発してきたことがわかるだろう。しかし、当時のアレサの敵である男は、身内だけではなかった。それが見えてきた時、アレサがこの時期の男権社会と、どう格闘してきたかが浮き彫りになる。

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