草笛光子が明かす、45年目の『犬神家の一族』秘話。高峰三枝子に施した“死に化粧”
「やっぱり顔は最後、眉で決まりますね。そこまでは、自分の責任だと思っています」
『悪魔の手毬唄』(77)では誇り高き未亡人役を、『獄門島』(77)では凄まじい最後を遂げる女役者役を、『女王蜂』(78)ではちんどん屋役を、『病院坂の首縊りの家』(79)では南部風鈴を手掛けるすすだらけのおばさん役と、シリーズを通してバラエティに富んだ役柄を演じてきた草笛。
「ちんどん屋の時も、いきなり先生が私のかつらをぱっとずらして『これでいいの』とおっしゃいました。『獄門島』では金歯を入れる提案もしましたね。アイディアを出して採用してもらえた時はすごく嬉しかったし、そうやって役作りの楽しさを見出していった気がします」と言う。
「『犬神家の一族』の梅子はきれいな役でしたが、それ以降、だんだん汚れた役になっていったんです。ある時、舞台挨拶で『私はだんだん汚い役になっていきました』と言ったら、市川先生が『汚い役というのはきれいな女優が言う言葉だよ』とおっしゃった(笑)」。
だが、これには後日談がある。「リメイク版『犬神家の一族』の衣装合わせに行った時、市川先生が突然『君には汚い役ばかりやらせてごめんなさい』とおっしゃった。謝るなんて初めてだったので、とても嫌な感じがしたんです。その時は『いいんですよ』と言いながら、涙が出そうになったのをごまかしました」。そして実際に同作は、市川監督の遺作となったのだった。
いまでも心から市川監督には感謝しているという草笛。市川組の現場を経てから、役作りそのものにやりがいを見いだしたそうで、衣装やメイクなどもほぼ自分で考えていくそうだ。「それがなかったら、役者なんてつまらないでしょ。もちろん監督に相談はしますけど、それを考えるのも役者の仕事。やっぱり顔は最後、眉で決まりますね。そこまでは、自分の責任だと思っています」とキッパリ言う。
「いまは、来年出演する舞台のことを考えています」と、いかにも楽しそうな表情で語る草笛。余談だが、この日おじゃました事務所の稽古場には、バランスボールが置かれていた。なんと草笛は食卓でもバランスボールに座って毎日食事をしていると言う。
年齢を経ても衰え知らずの好奇心や探究心だけではなく、そういった日々の努力を積み重ねることで、88歳の草笛は、一流女優として舞台に立っている。筆者はカッコいい女優道を見せつけられ、まさに背筋が伸びる想いがした。
取材・文/山崎伸子
