草笛光子が明かす、45年目の『犬神家の一族』秘話。高峰三枝子に施した“死に化粧”

インタビュー

草笛光子が明かす、45年目の『犬神家の一族』秘話。高峰三枝子に施した“死に化粧”

「私が映画をおもしろいと思えるようになったのは、市川先生のおかげです」

犬神家の三女・梅子役を演じた草笛光子
犬神家の三女・梅子役を演じた草笛光子[c]KADOKAWA1976

草笛は、『犬神家の一族』を皮切りに、『悪魔の手毬唄』(77)、『獄門島』(77)、『女王蜂』(78)、『病院坂の首縊りの家』(79)までの連作、そしてリメイク版『犬神家の一族』まで、石坂主演・市川監督の「金田一耕助」シリーズ全作に出演している。石坂演じる金田一耕助について、草笛は「あまり人間とは思っていなかったかもしれない」とどこか浮世離れしたキャラクターだと捉えていたそうで「私たちが演じる登場人物の外側にいる感じでした。色で言えば無色な感じです」と表現する。

現場での石坂のエピソードについて聞くと「お料理が得意な方なので、よく市川先生のご飯を作っていらっしゃいました」と言う。「石坂さんは『今日はなににしますか?』とおっしゃって、鍋やすき焼きなどを作っていらしたけれど、私は残念ながらその手料理をいただくことはなかったです(苦笑)。私はどちらかというと、市川先生の“甘いもの係”でした。先生は甘いものがとてもお好きで、私が撮影現場に持って行くカゴに甘いものを入れているのをご存じで、朝必ず覗きにいらしていました」


野々宮珠世役に島田陽子
野々宮珠世役に島田陽子[c]KADOKAWA1976

草笛が初めて市川作品に出演したのは市川雷蔵主演映画『ぼんち』(60)で、以降、多数の市川作品に出演してきた。“色彩の魔術師”と言われる市川監督は、スタイリッシュな映像に定評のある監督だが、常にアンテナを張っていたようで、草笛が出演していたテレビシリーズ「必殺必中仕事屋稼業」(75)も欠かさず観ていたそうだ。

「『犬神家の一族』の前に『必殺』シリーズに出演していたんですが、市川先生から夜に電話がかかってくるんです。『いま撮っているカメラマンは、なんていう人?』とか『あのシーンはなんメートルぐらい離れて撮ったの?』と、いろいろと質問をされるので、私も毎回それに答えていきました。やはり画作りにはものすごく敏感な方だったなと思います」。

また、草笛は「私が映画をおもしろいと思えるようになったのは、市川先生のおかげです」と、心からリスペクトする。『犬神家の一族』で演じた三女の梅子は、着崩した感じの着物と乱れ髪がとても艷やかでセクシーだが、それは市川監督の提案だったそうだ。

「女優としての役の“崩し方”は、市川先生との仕事で覚えました。梅子役では、最初にきちんと着物を着ていたら、先生がすっと後ろからいらして襟元をぐずぐずに崩したんです。『それがいいんだ』とおっしゃって。なるほどと思いましたね。市川先生には、いろんなことを教えていただきました」。

犬神佐兵衛役に三國連太郎
犬神佐兵衛役に三國連太郎[c]KADOKAWA1976

逆に草笛も、市川監督には物怖じせずに、いろんな意見を出していったそうだ。三姉妹の着物についても、用意されたものに違和感を覚えた草笛は、正直にそのことを市川監督に伝えてから、監督やスタッフと共に反物から探しに行ったとか。また、基本的に化粧も自分でするという草笛は、三國連太郎演じる犬神佐兵衛のメイクがあまりにもクオリティが高かったことに驚き、そのノウハウを直接本人に聞きにいったそうだ。

「佐兵衛さんはすごい顔色でしたでしょ。だから『どうやったんですか?』と三國さんに伺ったら、『ストッキングを切ったものを貼って、その上からドーランを塗ったんだよ』と教えてくださいました。翌日はまた別の死に顔のメイクだったので、また質問したら、今度は時代劇用のやり方について話してくださったんです。三國さんの役へのアプローチの仕方は毎回すごくて、本当にこだわっていらっしゃるから、勉強になりました。『犬神家の一族』はすごいメンバーの方々に囲まれていましたが、そういう意味でも、いい役者さんと共演することはとても大事なことですね」。

関連作品