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デジタルの作品を、あえてアナログに!『映画大好きポンポさん』フィルム化が目指した、真の“意義”とは

コラム

デジタルの作品を、あえてアナログに!『映画大好きポンポさん』フィルム化が目指した、真の“意義”とは

「時間を手に持てる」ということ

知れば知るほどフィルムは奥が深い。濵野はフィルムの魅力として、“時間”を手に持つことができる媒体であることを挙げた。「この24コマに1秒分の絵と音が全部入っていて、それを手で持てる。この感覚は独特ですし、ほかにない魅力」。そう語る濵野の目は、心なしかうっとりしている。

また、デジタルデータは制作時にモニタで表示されていたものを、そのままプロジェクタ経由で映写すればいいだけだが、フィルムは化学変化によって映像を物理メディアに焼き付ける必要がある。つまり「手作業」であり、どんな経験豊富な技術者であっても「やってみなければわからない」側面がついて回る。100パーセントはない。だからこそ、フィルム化作業は底なしに奥が深い。

F)ネガの濃測チェック

濵野はさらに、デジタルと違って撮影時も現像時も “すぐに見られない”フィルムの特性を指摘する。「いま撮ったものをすぐに確認することができないからこそ、演者もスタッフも演技に集中します。これって、作品作りにとってはとてもいいことだったんじゃないかと思うんです。現像も、してみないと仕上がりがわからない、完成が見えない。でも、それがおもしろい。いまのものづくりは、なににつけ“見えているものを繋げる”けれど、“見えないものを想像する”というのは、クリエイティブには重要なんじゃないかって」。

さらに、フィルムは非常に専門性が高いものなので、それを扱うラボの技術者と作品を作る製作側の距離が近かった。濵野の言葉を借りれば、「お互いがいないと成り立たないという関係性」があったのだ。それもまた、クリエイティブに大きな影響を与えていただろう。

フィルムは単に、“ノスタルジーを喚起するメディア”ではない。映画という芸術、ものづくりの真髄を概念レベルで閉じ込めた、“文化”そのものだ。松尾が冒頭で口にした“文化継承”は、決してオーバーな表現ではなかったのだ。

フィルムver.制作の本当の意義

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[c]2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会


Makuakeでのプロジェクトは約1か月強で1064人の支援を集め、目標の1000万円を大幅に超える1747万5000円を達成した。『この世界の片隅に』がそうだったように、本編のエンドロールやパンフレットに名前が載るわけではない。にもかかわらずここまでの数字を達成した事実を、中山は大きく評価する。皆、作品に関わりたくて仕方ないのだ。なお松尾によれば、応援購入者はフィルムにあまり馴染みがない20代・30代が大半だった。本企画が年長者のノスタルジー頼みではなかったことは、ここでも証明されている。

改めてプロジェクトの意義を振り返る。合理性という側面から考えれば、フィルム化は非常に不合理だ。確かに、デジタルとは違うものが見られる。しかし「現像してプリントを焼くコストはDCPの約10倍もかかるので、フィルムはいまや完全に嗜好品と言っていい」とは松尾の弁。なのに、なぜやるのか?中山はMakuakeのビジョンである「生まれるべきものが生まれ、広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界の実現」を前置きしつつ、こう力説した。

「拡大一辺倒の資本主義下では、どうしても“儲かる”とジャッジメントされたものしか生まれません。その“儲かる”の度合いも、いまはえげつないくらい巨大な規模が求められますよね。でも、生殺与奪の権利が大規模資本のみに握られていると、画一的なものしか生まれません」。

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[c]2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

『ポンポさん』本編の終盤、追加撮影用の融資を渋る銀行経営陣たちの顔が浮かびはしないだろうか。中山は続ける。

「でも、ニッチな欲望が認められる世の中って悪くない。それで言うと、『フィルムで観たい』だなんてニッチな欲望を持つ人が、たった1000人ちょっといれば実現できるんですよね。それってすごい可能性だし、歴史的意義だと思うんですよ」。

経済合理性から外れたところにも確かなる意義があることを、『ポンポさん』は作品の中でも外でも力強く証明した。石田は、フィルム化の相談が松尾から舞い込んだ時のことを思い出す。「商業ベースとは違ったところで、ただただ興味と“やりたい”って思いだけで会話が進むんですよ。もう、本当に楽しかったです」。

まだプロジェクトが継続していた8月のある日、筆者は松尾に聞いた。「なんでフィルム化なんですか?」。松尾は即答した。「おもしろそうだったから」。思えば、その一言にすべてが集約されていたのだ。

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取材・文/稲田 豊史

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