リン=マニュエル・ミランダが振り返る、『イン・ザ・ハイツ』『tick, tick... BOOM!』から『ミラベルと魔法だらけの家』へ、駆け抜けた2021年
「多忙な時は、大学に戻って授業を受けているのだと自分に思い込ませています(笑)」
この多忙な1年を、「正直なことを言うと、“来年の話をすると神(鬼)が笑う”というもので、意図した通りのスケジュールではありません。もともと『tick, tick... BOOM!』は今年の春に公開する予定でしたし、『ミラベル』をこの時期に公開することは事前から決まっていました」と振り返るミランダ。「自分がやると決めたことや締切などに圧倒されるのは簡単ですが、そういう時には大学に戻って授業を受けているのだと自分に思い込ませるようにしています。だからこれらの作品もプロジェクトではなく、『ミラベル』や『ビーボ』はミュージカル作曲の授業で、『tick, tick... BOOM!』は映画演出集中講座を受けているのだと考えました。なので、『イン・ザ・ハイツ』ではジョン・チュウ監督と一緒に卒業論文を書いていたようなものです」。
学びに置き換えることで、それぞれのプロジェクトを俯瞰で眺め、4本の作品が相互に影響を与え合うことに気づいたという。「『リトル・マーメイド』で(作曲家の)アラン・メンケンから学んだことを、『ミラベル』の作曲に活かすことができました。そして、自分の歌が世界をどのように変えるかを見届けることができなかった若きソングライター、ジョナサン・ラーソンの映画を一日中編集していたのちに、ピアノに向かった時に感じる感謝の気持ち。それらは、私を媒介にし作品を通じてつながっていくのです」。
「ハミルトン」第一幕ラストの楽曲「Non-Stop」では、新進弁護士として先急ぐように一心不乱に働くアレキサンダー・ハミルトンに対し、ライバル弁護士のアーロン・バーが「時間がないかのように書くのはなぜか?」と問いかける。また、『ビーボ』にも「Running Out of Time(時間切れ)」という楽曲がある。
実体験として締め切りや日常に追われることと、迫りくる期限を恐れる焦燥感は異なる。ミランダは、「『ハミルトン』の楽曲を書く前から、私の頭のなかには時間切れを恐れたジョナサン・ラーソンの姿があり、自分の作品を作ることによって彼の物語を語り、彼の物語に敬意を払うことに取り組んでいました。これが燃料になり、“やらなくてはいけない”という考え方から抜けだすことができたのです」と語る。