リン=マニュエル・ミランダが振り返る、『イン・ザ・ハイツ』『tick, tick... BOOM!』から『ミラベルと魔法だらけの家』へ、駆け抜けた2021年
「異文化を豊かに表現する、『ミラベル』のような作品をいつか作りたいと思っていました」
彼を駆り立てる音楽の力について、どのように捉えているのだろうかという質問をすると、この1年間に発表してきた作品全てをリファレンスにしながら一気に語ってくれた。
「音楽の力は絶大です。ある研究では、音楽を聴いている人の脳をスキャンすると、右脳左脳の両方の脳葉が働くのだそうです。これが音楽の力強さで、ほかのものではできないような力で私たちの心に届くのだと思います。音楽を天職とできることにとても感謝しています。でも正直なところ、いつも考えているのは、私は常に欠けているものについて書こうとしているのではないか、ということです。19歳で『イン・ザ・ハイツ』を書き始めたのは、恐怖のどん底にいたからでした。ミュージカルが好きで、ミュージカルの世界で生きたいと思っていました。私はプエルトリコ人男性ですが、『ウエストサイド・ストーリー』と『コーラスライン』のいくつかの役でしか、その姿を観たことがありません。舞台で観るもののほかにもたくさんの物語があることを知っていたので、異文化を豊かに表現する、『ビーボ』や『ミラベル』のような作品をいつか作りたいと思っていました」。
「私たちはいま、時間を取り戻そうとしているのです。ハリウッドにおけるラテン系の存在感は、どのようなレポートを見てもひどいものです。最初のプロジェクトの『イン・ザ・ハイツ』で学んだのは、役を作るたびに次世代の才能が飛び立つ道を作れることでした。扉が大きく開くのです。今年、(映画版『イン・ザ・ハイツ』で主演を務めた)アンソニー・ラモスが映画スターになったのを見て感激しました。彼が『ハミルトン』のオーディションでドアを開けて入ってきた時、『彼は誰だ?』と思ったのを覚えています。彼は常に映画スターでした。ただ、出演すべき映画がなかっただけです。さまざまな形で才能を発揮する機会を提供することが、私がこの役割に傾倒する大きな喜びの一つなのです」。
「『tick, tick... BOOM!』は、私をこの道に導いてくれた人の物語です。私は17歳の誕生日に『レント』を観て、胸を膨らませました。いままで見たなかでもっとも現代的なミュージカルでした。実際に私が住んでいたニューヨークのようでした。ブロードウェイの舞台で見たことのないような多様なキャストが出演していました。舞台上に美しい人種のモザイクを広げ『シーズンズ・オブ・ラブ』を歌うシーンは、20年近く後の『ハミルトン』のオープニングナンバーにも影響を与えました。そして、21歳のときにミュージカルの『tick, tick... BOOM!』を見た時、個人的に、そして具体的にジョナサン・ラーソンが自分の物語を語っているように感じました。私にこの道を歩ませてくれた人物であり、その人生と遺産に敬意を表するという意味でも、最初の監督作としてこれ以上のものはないと思います」。
取材・文/平井 伊都子