“過激でスタイリッシュ”なだけじゃなかった…“キングスマン”設立に秘められた、父と息子のドラマに心揺さぶられる!
ロンドンのサヴィル・ロウにある高級テーラーに集う高貴な英国紳士が悪と戦う痛快アクションエンタテインメント「キングスマン」シリーズ。その最新作となる『キングスマン:ファースト・エージェント』(公開中)は、最強のスパイ組織“キングスマン”の誕生を描いた始まりの物語だ。
ヨーロッパが2つの陣営に分かれ険悪な空気が漂っていた1914年。秘密組織“闇の狂団”は世界に大混乱を巻き起こすため、各国に刺客を送った。イギリス貴族で平和主義者のオックスフォード公(レイフ・ファインズ)は、独自の諜報網を使ってドイツやロシアでの不穏な動きを察知。息子コンラッド(ハリス・ディキンソン)や仲間と共に、“闇の狂団”の企みを阻止すべく立ち上がる。
今作の舞台は、第一次世界大戦直前。オックスフォード公は、温和な紳士という表の顔の裏側で、屋敷に作った秘密の小部屋に諜報組織を設立。家政婦にして銃の達人ポリー(ジェマ・アータートン)、使用人で最強の戦士ショーラ(ジャイモン・フンスー)と共に国内外のあらゆる情報を収集していた。争いごとが嫌いなはずのオックスフォード公が、ここ一番で激しいアクションを繰りだす痛快さは本シリーズの醍醐味。そんな彼が行きつけのテーラー、キングスマンを密談の場に使っていたり、やんちゃなコンラッドを組織に迎え入れたりするなど、端々に「キングスマン」シリーズへの布石が見て取れるのもお楽しみ。
互いを思いやるからこそのすれ違い…オックスフォード公とコンラッドとの絆に感涙
今作において最も注目したいのが、ハイテンションなノリやキレが売りの「キングスマン」とのギャップを感じさせる、オックスフォード公と一人息子コンラッドとの父子の絆のドラマだ。若きころ、オックスフォード公は紛争地の視察中に、目の前で妻を撃ち殺されるという苦い経験を持っていた。死にゆく妻から息子を守るよう懇願された彼は、常にコンラッドの安全に気を配る過保護な親になってしまう。一方のコンラッドは、国のために戦場で戦いたいと願う純粋で正義感の強い若者。平和へ従事する考え方の違いにより、奇しくも2人は決別し別々の道を歩むことになる。
そして、政府や軍部に強いコネクションを持つ父の根回しをかわし、自ら最前線へ立ったコンラッドを待ち受けていたのは、想像を絶する光景だった。中盤の見せ場にもなるのが、第一次世界大戦で最も激しい戦闘が繰り広げられた西部戦線。近年は『ワンダーウーマン』(17)や『1917 命をかけた伝令』(19)のほか、ピーター・ジャクソン監督のドキュメンタリー『彼らは生きていた』(18)でもその過酷さが映しだされたが、本作でもその惨状をリアルに描写している。そこで心身共に追い詰められたコンラッドは、あえて自分を戦場から遠ざけようとしていた父からの愛情を痛感し、父子の想いが通じる瞬間が訪れる。
振り返れば第1作『キングスマン』(14)の根底にあったのも、不良少年エグジー(タロン・エガートン)と彼を“キングスマン”にスカウトしたハリー(コリン・ファース)の“父と子の物語”だった。仲間だったエグジーの父を自分のミスで死なせたハリーは、どん底にいたエグジーをすくい上げ、愛のある厳しさで教育。“キングスマン”屈指のエージェントに育て上げ、ハリーのコードネーム“ガラハット”はエグジーに引き継がれた。今作では実の親子が、厳しくも熱い人間模様が繰り広げられる。エグジーとハリーとはまた違う、ほろ苦い展開が心にしみる。