“過激でスタイリッシュ”なだけじゃなかった…“キングスマン”設立に秘められた、父と息子のドラマに心揺さぶられる!
マシュー・ヴォーン監督のこだわりが随所に光る史実とフィクションが交差した世界観
いまから約100年も前の物語だが、外観を含めキングスマンの店の造りが現在とまったく同じなのもうれしいところ。前2作から続いてマシュー・ヴォーンが監督を務めるだけに、細部にわたるこだわりも半端じゃない。
史上初の世界戦争を絡めた今作は、歴史的事実とフィクションが交差しながら展開する。戦争の引き金になったオーストリア=ハンガリー帝国の大公夫妻が暗殺されたサラエボ事件を画策し、ドイツとロシアの敵対心を裏から煽るなど、すべてを影で操っていたのが“闇の狂団”。ロシアのニコライ2世一家に取り入り、宮廷を操った実在の怪僧ラスプーチン(リス・エヴァンス)もそのメンバーという設定だ。
ほかにもオックスフォード公と親交の深いイギリス国王ジョージ5世、軍人キッチナー卿、大戦中にスパイ容疑で処刑されたダンサーで娼婦のマタ・ハリなど、歴史上の人物が主要キャラクターで登場する。史実の隙間に巧みにフィクションを織り込む妙味こそ、前2作にはない今作の魅力。20世紀初頭の世界を緻密に再現したビジュアルと相まって、映画にフィクションの枠を超えたリアルな質感を与えている。
過激でスタイリッシュなアクションも健在!おなじみガジェットの原型も!?
暗い世相を反映しシリアスに寄せた今作だが、トレードマークの多彩なアクションは健在だ。まず目を引くのがラスプーチンとのトリッキーなバトル。戦いの腕も一級の怪僧は、オックスフォード公、コンラッド、ショーラと3人を相手に激しい格闘戦を展開する。コサックダンスを取り入れたアクションは、ロシアのダンサーたちの協力のもと、ダンスと格闘技を組み合わせたもので、その動きはすべて実行可能だという。荒唐無稽に見えながら、絵空事で済ませないこだわりはすばらしい。
“闇の狂団”の本拠地に突入するクライマックスは、一転して「キングスマン」らしいド派手なアクションが展開する。アクロバティックな高所スタントにはじまり、銃撃戦、フェンシング、格闘と次から次へと多彩なバトルを投入。おもしろいのは、のちに“キングスマン”が愛用する銃を仕込んだ傘やブレードが飛び出す靴、防御用のシールドといったハイテクガジェットの原形が顔を出すこと。なかには必要に駆られ無理くり“開発”されたものもあり、そんなルーツが楽しめるのも今作のお楽しみなのだ。
アーサーやガラハット、マーリン、ランスロットなど、エージェントのコードネームがアーサー王伝説に基づく理由も今作で判明。意外にシンプルな理由かと思いきや、実は泣けるエピソードが隠されていた。ほかにもルールや約束事など、“キングスマン”の原形が詰まった本作。第一次世界大戦後も世界は混迷を続け歴史的事件が続発しているだけに、今作はシリーズ化も視野に入れた作りになっている。『X-MEN:フューチャー&パスト』(14)で2つの時間軸をつないだ実績のあるヴォーン監督だけに、今後の展開にも期待が高まる。
文/神武団四郎