下北の“ヴィレバン”、明大前の“くじら公園”…『明け方の若者たち』井上祐貴&カツセマサヒコ&松本監督がロケ地巡り!
「映画で『あのシーン、よかったよね』っていうシーンが原作にないものだったら悔しいけど嬉しいです(笑)」(カツセ)
――もともとカツセさんご自身、この原作を書こうと思われた原点は?
カツセ「いろんな物語を書きたいと考えていたんですけど、最終的に説得力やリアリティを持って描けるのは、自分の過去のことから引っ張ってくるしかないなと思いました。それでどの時代の話だったら書けるのか、みんなに当てはまるのかと考えた時に、一番くすぶっていた時期を残しておきたいなとすごく思ったんです。そういう時代があったからこそ書けた話で、あのくすぶっていた気持ちはそのまま表現できましたし、映画にもそれが出ていてよかったなと思います」
――松本監督は原作を読まれて、どんなふうに感じましたか。
松本「原作で描かれている世代が自分とドンピシャの世代、かつ、そこからもうちょっと大人になった世界観というのもあったので、これからこういう気持ちを味わうのかなっていう一種の期待感と、少しばかりの恐怖感が入り混じったような感覚になりました」
カツセ「僕は今回完成した映画本編を観た時に、やっぱり書いたものがそのまま映像化された時の喜びと、書いていないシーンが映画になっていた時の新鮮さ、『こいつら、ちゃんと生きてたんだな』みたいに思うのがどちらもうれしかったので、それが一番ハッピーなことだなと思います。原作者が原作にないシーンを嫌うことはよくあることだと思うんですけど、僕はむしろ映画のオリジナルシーンのほうが好きで、お客さんが『あのシーン、よかったよね』っていうシーンが原作にないものだったら、悔しいけど嬉しいです(笑)」
――カツセさんは、撮影現場には足を運ばれましたか?
カツセ「下北沢のヴィレバンでの、“僕”と“彼女”の初デートシーンだけ立ち会ったんですけど、そこで『大丈夫かも』って素直に思えたんです。美術さんの気合いの入れようや、北村さんと黒島さんの自然な演技とか、結構忠実に再現されている場面をたまたま見たこともあるんですけど、『こんなに再現度が高いんだ』って驚きました。すごく安心して、『お任せします』と言ったのを覚えていて。楽しみでしかなかったです。小説の映画化について先輩たちに話を聞いていると、コロナも大変な時期でそんなスムーズにいかないだろうし、実現しても発売してから4、5年後とかになっちゃうかもしれないなって思っていたなかで、クランクインの報告連絡をもらって、奇跡のような話だなと思いました」
――井上さんが演じた尚人は、本当に理想的な親友ですよね。
井上「今回のお話をいただいて、僕はとにかく演じられるのが楽しみで仕方なかったです。本当に幸せな撮影期間だったんですけど、初めて台本を読んだ時に、例えば尚人の『これを機に、いい男になろうぜ』っていうセリフの『ぜ』とかは、普段なかなか使わないので、そういうところに最初は少し違和感を持っていました。でも僕にも尚人みたいな親友がいるので、彼にあてはめて自分のなかに役柄を落とし込んでいくにつれて、『尚人だったら、これを言うな』ってすべてのセリフを思えるようになりました。尚人なりの格好のつけ方や弱いところを隠して強がるような部分は意識したりしました」
――そして劇中では、“僕”と“彼女”のまさに沼のような5年間が描かれます。青春を描くにあたって松本監督がこだわった部分や意識した部分はあったのでしょうか?
松本「言葉にできない感情を大切に、作りました。“僕”が抱いている気持ちってきっと、しっかりした言葉にしようとすると、難しい。なんで“彼女”のことが好きかと聞かれても好きなものは好きだし、なんで毎日モヤモヤしてるのかと聞かれてもその理由は一つじゃないし、一言じゃ言えないし。でもその未熟さこそが、人生のマジックアワーの体現でもあるんじゃないか、と思いました」
「キャストの3人が一緒にいることがとても自然に感じられたんです」(松本)
――現場で役作りについてはなにか話されたりしましたか?
松本「初めて北村さん、黒島さんと井上さんが揃った本読みの時から思っていたのですが、“僕”と“彼女”、尚人はなんというか、纏っている空気感が近くて。この3人が一緒にいることがとても自然に感じられたんです。だからその空気感を壊さないようにしないと、という想いがありました。北村さんとは、『とにかく自然体でいる』という共通認識を持ちました。黒島さん、井上さんとは原作には描かれていない“彼女”、尚人の一面も見せられるよう、人物像を深堀りしていきました」
――井上さんは、北村さんと黒島さんと本作でご一緒されていかがでしたか?
井上「この主人公の“僕”という役は、もう匠海くん以外考えられないですよね。匠海くん本人も、行くところ行くところロケ先で『ここはこういう思い出がある、ここはこんな時に…』みたいに言ってたんですよ。たぶん想い入れのない場所はないんじゃないかっていうくらい。匠海くんが、カツセさんに『もう自分の人生を見透かされているような気持ちになった』って言っていたじゃないですか。撮影で一緒に過ごしていて、本当にその言葉のまんまだなって思いました。黒島さんも掴めそうで掴めないというか、あの唯一無二の雰囲気というか…。特に明け方まで飲み明かした3人のシーンで思いましたね。朝日を背に彼女が先に走っていって呼ぶところは、“彼女”にしか見えないですよね!」
カツセ「あれは、勝てんってなりますね(笑)」
井上「最高な2人だなって思います」
カツセ「3人とも、よくここまでやってくださったなと。それに尽きますよね。ご本人たちがどこまで意図していたのかわからないような細かな所でよさが出ていて、主人公なら確かにそういう表情しそうとか、“彼女”ならその仕草しそうとか、尚人ならこう言い切りそう、みたいなところがはっきり出るから、観ていて気持ちよさがすごかったですね」
――明け方の高円寺を駆け抜けるシーンは、まさにこの映画を象徴しているようでした。
カツセ「実に映画的ですよね。原作にはないシーンなんですけど、あそこは満場一致で映画のなかでも非常に大事なシーン。幸せの絶頂もあそこがピーク」
井上「曲も最高ですよね!」
カツセ「主題歌もやってくれた、マカロニえんぴつの『ヤングアダルト』が、あのタイミングでかかるのはズルいですね(笑)。」
井上「ちょっとスローになって、エンディングやん!っていう(笑)。あそこからまたガラッと変わるのも、いいんですよね」
松本「原作にいくつもの名曲が出てくるので、どこでどの曲を使おうかと悩みましたが、心情や時代性を表せるようにしたいなと」
カツセ「相当強いラインナップだったからどうなるかなと思っていたんですけど、いいシーンでいい曲がかかるのでうれしかったです」