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古さや新しさを超越するジョン・カーペンター独自のスピリット…『ニューヨーク1997』が提示する映画本来の楽しさとは?

コラム

古さや新しさを超越するジョン・カーペンター独自のスピリット…『ニューヨーク1997』が提示する映画本来の楽しさとは?

昨今のハリウッド映画に対するアンチテーゼとも言える“ほどよい”さじ加減

こうしたスネークの特異なキャラクターに加え、自由の国アメリカが強権的な管理国家に変貌し、マンハッタン島そのものを脱獄不可能な監獄に仕立てたディストピア的世界観も秀逸だ。スネークの首に仕込まれた時限爆弾(ニトログリセリン入りのマイクロカプセル)、スネークがマンハッタン島潜入時に活用するグライダー、物語を動かす重要な小道具となるカセットテープを収納したブリーフケースなど、細部のおもしろさも尽きない。カーペンター自身が作曲した、無機質なのに不思議とエモーショナルなシンセサイザー音楽にも高揚感をかき立てられる。


超人的な強さがあるわけではないが、独特な哀愁を漂わせるスネークが歩く姿には、惚れ惚れさせられる
超人的な強さがあるわけではないが、独特な哀愁を漂わせるスネークが歩く姿には、惚れ惚れさせられる[c] 1981 STUDIOCANAL SAS - All Rights Reserved.

そして本作がすごいのは、これといった圧倒的なスペクタクルが盛り込まれているわけではなく、なにもかもが緩やかにあっけなく展開するのに、なぜか画面からひと時も目が離せないことだ。ほどよい長さ、ほどよいスケール感、ほどよい描写のさじ加減によって堅固に仕上げられたこの娯楽映画は、2時間半超えのオリジナルタイムが当たり前になり、過剰な視覚効果で塗りたくられた昨今のハリウッド映画に対するアンチテーゼと見なすこともできる。

はたして映画本来の楽しさ、スリル、興奮、感動とはなんなのか。どこからともなく現れ、またどこかへ去って行く永遠不滅のアウトロー、スネーク・プリスケンこそが、その答えを提示してくれるのだ。

文/高橋諭治