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『ドライブ・マイ・カー』の賞レース快進撃、オスカー攻略の鍵は“役者の生態”を描いたストーリーにあり?

コラム

『ドライブ・マイ・カー』の賞レース快進撃、オスカー攻略の鍵は“役者の生態”を描いたストーリーにあり?

潮目が明らかに変わってきたのは、2021年11月末のゴッサム・インディペンデント映画賞で外国語映画賞を受賞し、翌週の第87回NY映画批評家協会賞で作品賞に選出されてから。英語以外の言語の作品が、外国語映画賞ではなく作品賞を受賞するのは、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』(19)以来。そして、NYと双璧をなすLA映画批評家協会賞でも作品賞と脚本賞を受賞。監督賞を受賞したジェーン・カンピオン監督『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(21)の次点に濱口竜介監督が選ばれている。NYやLAの批評家協会と会員が重なっている全米批評家協会賞での快挙も納得できる。

2019年の全米俳優組合賞では国際長編映画賞を受賞した『パラサイト』
2019年の全米俳優組合賞では国際長編映画賞を受賞した『パラサイト』写真:EVERETT/アフロ

一癖も二癖もある米国の批評家や外国人記者が選ぶ賞は、アカデミー賞の前哨戦というよりは、ノミネーションの際に参考になる目星をつけるためのもの。というのは、2020年時点で9921名いるアカデミー賞を選出する映画芸術科学アカデミー(AMPAS)会員は、多くが映画制作者やスタジオ関係者であり、批評家やジャーナリストが含まれているのは稀だ。AMPAS会員のマジョリティを占めるのが俳優で、2019年時点で1000名強のメンバーがいるとされている。


16万人以上の会員組織である全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)が選ぶ全米映画俳優組合賞が、アカデミー賞の行方を占う試金石とされているのはそのためだ。2019年度の賞レースで『パラサイト』が国際長編映画賞を超えた評価を受けることを確信したのは、第26回全米俳優組合賞で作品賞に順当する映画部門キャスティング賞を受賞したことからだった。

『ドライブ・マイ・カー』で、物語と併走する演劇の「ワーニャ伯父さん」
『ドライブ・マイ・カー』で、物語と併走する演劇の「ワーニャ伯父さん」[c]2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

では、『ドライブ・マイ・カー』はどこまで歩を進めるだろうか。映画を思い返してほしい。全編を通じて、俳優がオーディションで選ばれ、本読みを経て舞台に立つまでの表現の変化を、舞台演出家であり役者でもある家福(西島秀俊)の喪失との対峙に重ね合わせて描いている。主役は家福だが、“役者の生態”がもう一方の主役だとも言える。劇中に登場する「ゴドーを待ちながら」や「ワーニャ伯父さん」は、舞台訓練や演劇の心得がある俳優が多いアメリカでは、馴染み深い作品だろう。

【写真を見る】快進撃の理由は“役者の生態”を描いた物語にあり?「ワーニャ伯父さん」はアメリカでも親和性の高い作品
【写真を見る】快進撃の理由は“役者の生態”を描いた物語にあり?「ワーニャ伯父さん」はアメリカでも親和性の高い作品[c]2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

村上春樹の名は日本人が思うよりも知識層に浸透していて、原作を読んでいる人も多い。原作からの引用だが、シンプルながらも興味を惹く『ドライブ・マイ・カー』というタイトルが抜群に強い、という意見も聞かれた。注目の第28回全米俳優組合賞のノミネーション発表は現地時間1月12日朝10時(日本時間1月13日深夜0時)、授賞式は2月27日に行われる。

文/平井伊都子

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