SNSの受賞結果で十分?史上初のオンライン発表を行ったゴールデン・グローブ賞で見えてきた、賞レースと報道のあり方
第79回ゴールデン・グローブ賞がオンラインで発表になり、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が、日本映画として62年ぶりの非英語映画賞を受賞した。ドラマシリーズ部門作品賞など3部門にノミネートされていた韓国ドラマ「イカゲーム」(Netflix)からは、No.001のオ・ヨルナム役を演じたオ・ヨンスが、韓国人俳優として初めてのドラマ部門助演男優賞を受賞している。
ゴールデン・グローブ賞が行われたロサンゼルスでもオミクロン株の猛威が広がっており、2022年に入り数々の映画プレミアやイベントが中止もしくは延期となっている。ゴールデン・グローブ賞と同日の2021年12月13日にノミネーションを発表した、第27回放送映画批評家協会賞(Critics Choice Awards)は、同じく1月9日にロサンゼルス市内のホテルで、バンケット形式の授賞式を計画していたが、日程未定の延期を表明している。
だが、ゴールデン・グローブ賞がSNSを使った異例のオンライン発表となったのは、パンデミックだけが原因ではない。昨年の授賞式直前にゴールデン・グローブ賞を選出するハリウッド外国人記者協会(HFPA)の閉鎖的な体質や、数々のスキャンダル報道を受けて、ハリウッドスターのパブリシストたちが同団体との接点をシャットアウトした。その結果、テレビ中継を行っていたNBCが放送を見送り、HFPAは会員と関係者のみのクローズドな授賞式を決行した。
皮肉なことに、受賞結果は会場での発表後にツイートで世界中に拡散され、テレビ中継を行っていた時と変わらぬ状態で人々の関心を集めた。パンデミック以前から、ゴールデン・グローブ賞に限らずあらゆる授賞式番組の視聴率は下降の一途で、視聴者は2時間や3時間もある番組を受賞結果のためだけに観ない。気になる結果だけをSNSで知ればいいと考えていて、スターが列挙するレッドカーペットの動画や、司会者の際どいギャグなどがバズらない程度の誤差だ。HFPAのスキャンダルとキャンセルは、今後の賞レースと報道のあり方を考えるきっかけになるだろう。
今年は、以前のようなスターが一同に会し、受賞発表に一喜一憂する姿を全米に生中継する式典の代わりに、ネット配信もなくしてごく少数の招待客と会員によるプライベートな受賞発表イベントを行った。招待客とは、HFPAが過去30年以上にわたり5000万ドル以上(約57億6500万円)もの支援を行ってきた人権団体や、映画にまつわるNPOなどの代表。彼らが団体の活動趣旨と成果を述べ、緊張しながら受賞作品や受賞者を発表する姿から、映画産業のプロフィットサイクルがつながっているように見えた。
スタジオが巨額の製作費でAリストのトップスターを起用して作品を作り、その利益が巡り巡って、映画フィルムの修復事業や専門映画を紹介する映画祭、パンデミックで職を失った業界関係者の支援につながっていく。映画のマーケティングの一種として利用されている賞レースだが、ハリウッドとロサンゼルスに映画が主要な産業として根付いていることを実感する授賞式だった。
受賞結果に話を戻すと、映画部門の<ドラマ部門>作品賞、部門共通助演男優賞(コディ・スミット=マクフィー)、監督賞(ジェーン・カンピオン)の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』、映画部門<ミュージカル/コメディ部門>作品賞、主演女優賞<ミュージカル/コメディ部門>(レイチェル・ゼグラー)、部門共通助演女優賞(アリアナ・デボーズ)の『ウエスト・サイド・ストーリー』がそれぞれ3部門で最多受賞を分け合った。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のベネディクト・カンバーバッチは各賞で主演男優賞を受賞している本命だが、ゴールデン・グローブ賞では『ドリームプラン』でテニスのウィリアムズ姉妹を導く父親役を演じたウィル・スミスが受賞した。最多ノミネートだった『ベルファスト』は、脚本賞(ケネス・ブラナー)を受賞。スタジオ別では、Netflixの4部問、続いてディズニー(20世紀スタジオ)の3部門、ワーナー・ブラザーズの2部門。
ドラマシリーズ部門では、最多5部門ノミネートの「キング・オブ・メディア シーズン3」が、作品賞<ドラマ部門>、主演男優賞(ジェレミー・ストロング)、部門共通助演女優賞(セーラ・スヌーク)の3部門を受賞。<ドラマ部門>の主演女優賞に「POSE/ポーズ」のMJロドリゲス、助演男優賞を受賞した77歳のオ・ヨンス(「イカゲーム」)は、韓国人俳優で初受賞となった。配信・放送局別では、HBO /HBO Maxの6部門が圧倒的最多受賞で、他は1部門ずつと賞を分け合っている。
文/平井伊都子