「バイオハザード」最新作の監督が語る、原作ゲームとホラー映画への情熱「リブートではなく“ゲームに基づいたストーリー”」
「カヤ・スコデラリオは完璧にクレアでしたよ」
ホラー映画ファンが本作を見れば、様々なオマージュが込められていることに気づくだろう。「この映画には、ジョン・カーペンターとスティーヴン・キングに対する僕の愛情が込められているんだ。例えば、どのようにストーリーを語るかという点では、カーペンターの『要塞警察』からインスピレーションを得ました。そしてラクーンシティは、キングの小説に出てくるような街にしたかったんです。『キャリー』や『IT』『キャッスルロック』の舞台のように、忘れられてしまった街のレトロな雰囲気を出そうとしました。レトロという点では、『エクソシスト』の1970年代の雰囲気も参考にしましたよ。余談ですが、僕は『エクソシスト3』が大好きなんです。街の雰囲気には、ほかに『赤い影』のような不穏さも取り入れました。一方で、ホラーではないですが、『パララックス・ビュー』の陰謀ドラマのような雰囲気もありますね。ストーリーテリングの方法も古いスタイルで、単一のカメラやズームレンズ、ローファイを使用しました。アンダーソン監督の映画はクイックカットを多用した明るいスタイルですが、本作はカーペンターやキングのタッチと同様に、とてもダークなものなんですよ」と、ロバーツは熱弁を振るう。
ホラーファンであることは、横のつながりのうえでもよい作用を与えた。例えば『クロール ―凶暴領域―』のカヤ・スコデラリオの起用。「『クロール~』のアレクサンドル・アジャ監督とは仲がいいんですよ。あの映画は大好きでしたし、彼がカヤをクレア役に推薦してくれました。僕としては、いかにもハリウッドの女優という華やかな人ではなく、袖をまくったらまっすぐに役に入り込むような、そんな人を求めていたので渡りに船でした。『クロール~』の多くの場面は水中だったので、カヤは本当に大変な経験をしたと思います。僕も『海底47m』で水中での撮影を経験していたから、それがどれだけ難しいかを知っています。今回の映画では、マイナス10度の雨天といった過酷な環境で頑張れる人を捜し求めていたのですが、初めて会ったときから、カヤが強い人であることがわかりました。彼女は完璧にクレアでしたよ」。
「ホラーはとても創造的で、うまく構成されたミステリー」
そもそも、なぜロバーツはホラーファンになったのか?その原点についても尋ねた。「J.R.R.トールキンの小説『指輪物語』を読んで育ちました。11歳のころでしたが、主人公たちが城に閉じ込められたり、戦闘で頭などが飛び散ったりなどの描写は、子ども心に本当に怖かったんです。その後、スティーヴン・キングの小さな町に潜む悪の世界を発見して、彼の作品に夢中になりました。そして、映画監督としてのヒーロー、ジョン・カーペンターの映画に出会いました」と彼は語る。これらの体験が彼をホラー映画の製作に駆り立てていることは、想像に難くない。「ホラーはとても創造的で、うまく構成されたミステリーでもあります。次の角を曲がるとなにがあるのか、ドアの後ろになにがあるのか、いつもハラハラドキドキさせられます。すべては想像力です。僕はホラー映画をたくさん観すぎて、正直、なにも驚かなくなっているので、新しいものを作るのが大変です(笑)。でも観客が自分の映画を観た時の反応が楽しみですし、自分がほかの映画を鑑賞した時の恐怖感を味わうのがたまらなく好きです。ホラー映画は、暗い所で大勢の観客と観るものですが、同時に約2時間で終わる安心感もあります。そして真に優れた映画ならば、その怖さはいつまでも残ります。とてもすばらしいジャンルです」。
ゲーム愛を動機にして、ホラー愛を原動力にして生まれた『バイオハザード ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』。そこにはロバーツ監督の強烈な意欲が満ち溢れている。夜の孤児院での異様な事件を皮切りに、雨が降りしきる寂れた街の不気味な空気、謎の病に冒された街の人々の奇行、ゾンビ化した彼らがもたらすパニック、その裏に隠蔽された陰謀、そして主人公たちのサバイバルへ。ダークな恐怖に彩られた本作に触れると、アンダーソン監督版と同様にシリーズ化も期待したくなる。まずは本作で、戦慄のラクーンシティに足を踏み入れてほしい。
取材・文/相馬学