何度でも観たくなる!恋愛コラムニストのトイアンナが読み解く『真夜中乙女戦争』登場人物たちの関係性
若者たちから圧倒的な支持を得ている新鋭作家Fの小説を、King & Princeの永瀬廉主演で映画化した『真夜中乙女戦争』が現在公開中。本作を「感情の玉手箱のような秀作」と激賞するのが「モテたいわけではないのだが」「確実内定」などの著書や、恋愛や就活をテーマにした連載で知られる、恋愛コラムニストのトイアンナだ。人間の内面を的確に読み解くことに長けるトイが、独自の視点で本作の登場人物たちの心境を捉え、作品の見どころについても語ってくれた。
本作で永瀬が演じるのは、上京して1人暮らしを始めた大学生の“私”。彼は奨学金で入学した苦学生で、友達も恋人もできず鬱屈とした日々を送っていた。そんな“私”が、「かくれんぼ同好会」という名のサークルで知り合った、美しく聡明な“先輩”(池田エライザ)に惹かれていく。また、カリスマ性にあふれた謎の男“黒服”(柄本佑)との出会いによって“私”の学生生活は一変し、やがて“黒服”が提案する過激な東京破壊計画に加担していく…。
「劇中の世界観そのものに共鳴して、観終わったあとは動けなくなりました」
映画を観た感想についてトイは「この台詞がグッときたとか、このシーンがどうだったかということよりも、劇中の世界観そのものに共鳴して取り込まれ、自分も心を一緒に震わせてしまうような映画でした。観終わったあとは、ぼんやりして動けなくなりました」とかなり陶酔できたよう。
監督・脚本は『チワワちゃん』(19)などの二宮健。「大人は若いころの感性をすでに失っているから、10代の赤裸々な気持ちをそのまま落とし込むような映画を作ることって、かなり難しいと思うんです。でも、本作は自分の奥底にある懐かしい感情を引っ張り出してくれるような映画で、全部のキャラクターの気持ちに入れ込んでしまいました。勧善懲悪のはっきりした物語ではないから、いい意味で賛否両論が起こるだろうなと期待しています。だからこそ、映画に繊細な心の揺れを求めている人からしたら、この映画は今年1番の作品になるんじゃないかと思いました」と太鼓判を押す。
「“私”にとっての“黒服”は、もう1人の自分だった」
“私”と“黒服”はシンパシーを感じあい、お互いになくてはならない存在になっていく。黒服役の柄本は永瀬との掛け合いについて「恋愛に置き換えて演じた」とも語っているが、この2人の関係性を、トイは「原作のオマージュ元である『ファイト・クラブ』にも通ずるのですが、私の解釈では、"私"にとっての"黒服"はもう1人の自分だったのではないかと捉えています」と語る。「全部をぶっ壊したいけど、それをする気力がない“私”と、その希望を全て叶えてくれる“黒服”。いわば“黒服”は、“私”の理想が反映された存在なのではないかと思います」。
その理由は「すごく緻密な設定の物語なのに、“黒服”の設定だけリアリティがまるでないから」だと言う。「謎の金持ちだったり、やたら爆薬に詳しかったりするけど、普段の暮らしが見えないんです。精神世界の対話だと思ったほうがしっくりくるので、あえて空想上の人物であるような解釈を持たせたのかなと思いました」。
トイは2人が徐々に距離を縮めていく描写を観て、最初はボーイズラブ的な要素があるのかと思ったが、その考えはすぐにかき消されたそうだ。「これは自己愛の物語。黒服という男は、なにもかもぶち壊したいという“私”のどす黒い欲望や、理想的な男らしさを備えているからこそ、“私”はそれを自分のものにしたいと思ったのではないでしょうか。だからこそ、2人の間で最初から通じ合っているような空気ができていたし、最終的にそれを受け入れていくという物語なのかなと思いました」。
“黒服”にとっても“私”の存在は不可欠だったというトイ。「“黒服”には決断から行動に至るまでのタメがない。彼はなんでも行動に移してしまう。実際、“私”に出会う前に校内を爆破したりと危険な行動に出ていました。だから“黒服”には、自分を止めてくれる誰かが絶対に必要で、それが“私”だったわけです。この2人は、切っても切れない関係だったのだと思います」。