歴史に埋もれた“女性スパイ”に敬意を込めた『355』を監督が語る「ジェシカ・チャステインはこの映画の原動力」
「『355』というタイトルは、現場で活躍する女性スパイを指す言葉です。実際に“秘密の生活”を送っている、本作に協力してくれたコンサルタントの方が教えてくれました」。『Mr.&Mrs.スミス』(05)や『シャーロック・ホームズ』(09)の脚本を手掛け、「X-MEN」シリーズのプロデューサーとしても知られるサイモン・キンバーグは、長編監督2作目となったスパイアクション映画『355』(公開中)のタイトルに隠された歴史を明かす。
「元々はアメリカ独立戦争時代に、ジョージ・ワシントンが活用した女性スパイのコードネームでした。当時スパイは女性らしい職業でもなく、なによりも女性の地位が低かった。男性スパイは有名になり歴史の本にも名前が残るようになりましたが、女性スパイは決して表舞台に出ることがなかったのです」。当時様々な成果を残しながらも、正体が明かされないまま歴史の中に埋もれていった女性スパイの存在を忘れないために、この“355”という呼称が残っているのだとか。
本作では“355”へ敬意を込め、その名が冠されたチームを結成する5人の女性エージェントたちの活躍が描かれる。CIAのメイス、ドイツ連邦情報局のマリー、MI6のハディージャ、コロンビアの諜報組織に所属するグラシー、中国政府で働くリン・ミーシェン。ライバル同士だった彼女たちは、世界中のインフラや金融システムなどを攻撃可能なデジタル・デバイスを利用しようとする国際テロ組織に立ち向かうため、“355”を結成しそれぞれの才能を駆使していく。
プロジェクトの発端は5年前に遡る。ジェシカ・チャステインが第70回カンヌ国際映画祭で審査員を務めた際、会場近くに貼られていた新作アクション映画のポスターに写るのが男性ばかりということに疑問を感じ“女性だけのチームのスパイ映画”というアイデアを思いつく。そして理想の監督を探し求め、そのころ撮影中だった『X-MEN:ダーク・フェニックス』(19)で長編監督デビューを飾ったキンバーグに白羽の矢を立て、自らメイス役を演じ、プロデューサーを兼任。
これまで様々な大ヒット映画を手掛けてきたキンバーグは「私はスパイ映画が大好きで、これまでにないようなスパイ映画を作ってみたいとずっと思っていました」と振り返り、「ジェシカからこのアイデアを聞いた時、とても斬新なものと感じ、過去に同じような映画があっただろうかと考えました。でも1本も思い浮かばなかった。とてもワクワクしながらジェシカと一緒にストーリーやキャラクター、それぞれの役のキャストを誰にしようかと話し合いを進めていきました」。
チャステインを筆頭に、キャストにはそうそうたる女優たちが名を連ねる。オスカー女優のペネロペ・クルスとルピタ・ニョンゴ、カンヌ国際映画祭で女優賞に輝いたダイアン・クルーガー、そして中国出身のファン・ビンビン。本作を手掛けるにあたってキンバーグが重視したのは、登場人物たちの国際色の豊かさと力強さ、そして映画のリアリティだったという。「登場人物たちの目線やアクション、ストーリーに至るまで、すべてを可能な限り現実に即したものにしたいというビジョンをジェシカと共有しました。現実的でエッジの効いた、それでいてクールな映画を目指したのです」。
それは映画の冒頭、パリの街を舞台に繰り広げられるスリリングなチェイスシーンに顕著にあらわれている。「映画の始まりを告げ、スケールの大きさを保証してくれると同時に、リアリティや推進力、たくましさも確約してくれる」と、そのスペクタクルが登場人物たちのディテールを強化する役割を果たすものになったと語るキンバーグ監督。「登場人物の絶望や気力であったり、世界を救うためにはなんでもする。これらは登場人物に基づいたスペクタクルであり、彼女たちが常に動いていると感じるような、力強く勢いのある映画にしたいというねらいもありました」。
そしてキンバーグは「ジェシカは常にすばらしいアイデアを持っていたし、なによりも劇中のメイスに負けないくらい高い志を持った人物です」と、チャステインを称え「彼女はこの映画の原動力で最高のクリエイティブパートナーです。監督として、彼女のようなプロデューサーがいることが理想的なのです」。役者としてもプロデューサーとしてもその才能を発揮するチャステインが劇中でどんな活躍を見せているのか。そしてキンバーグ監督とどんな化学反応を見せているのか。ぜひとも劇場で確かめてほしい。
文/久保田 和馬