『フレンチ・ディスパッチ』スタッフが語る、ファミリー感あふれる撮影現場「ウェスとの仕事は、人生を変える冒険」
ウェス・アンダーソン監督の10本目の長編作品となる最新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』が公開中だ。アンダーソン監督の作品には必ず、ビル・マーレイやオーウェン・ウィルソンといったおなじみキャストが集結するファミリー感と、スクリーンに映し出されるすべてのものに等しく宿る研ぎ澄まされた美意識がある。『フレンチ・ディスパッチ』で、アンダーソン監督の世界観作りに参画したスタッフたちのインタビューをお届けする。
「ウェスは、制作のすべてを掌握して綿密にプランを練る」
アンダーソン監督との出会いは『アンソニーのハッピー・モーテル』(96)で、2本のストップモーション・アニメーション以外のすべての作品で、監督の“眼”として作品を支えてきた撮影監督のロバート・イェーマン。出会った瞬間から「聡明で明確なビジョンを持った若者」だと感じたと思い返す。それから四半世紀経った今も、2人の“阿吽の呼吸”は変わらない。イェーマンは、「『ハッピー・モーテル』の撮影をテキサスで予定していると、ウェスから手紙と脚本が送られてきたのが最初です。その後ロサンゼルスで会って、お互いに尊敬する撮影監督についてなどの話をし、私たちが同じような美学を抱いていることがはっきりとわかりました。ウェスは、どの作品についてもとても明確で強いビジョンを持ち合わせた監督ですが、クリエイティブ・チームから寄せられるアイデアにも常に耳を傾けてくれます。そのうえで、撮影準備の段階で制作のすべての面を掌握し綿密にプランが練られているので、撮影に入る時点ですべての撮影方法と意図、達成方法をスタッフ全員が正確に把握しています」と、ウェス組のチームワークを称賛する。
その制作様式が最も顕著に現れているのが、全員で同じホテルに泊まり撮影を行う“合宿”制度。イェーマンは「ウェスとの仕事は、人生を変える冒険に乗り出すようなもの」と表現している。今回の冒険は、フランス西部の小さな街、アングレームが舞台。「ウェスが小さなブティックホテルを見つけてきて、撮影期間中そこが拠点になりました。監督、俳優たち、撮影部、プロデューサー陣、美術、衣装、編集など、すべてのスタッフを収容できました。編集室もあり、毎日撮影が終わると、ウェスと私はその日撮ったフッテージを確認しました。それから全員で食卓を囲みます。とても家族的な雰囲気で、時には編集室で少人数のグループに撮ったばかりのシーンを見せたりもしました」。
「『フレンチ・ディスパッチ』の衣装すべてが私のお気に入り」
合宿スタイル撮影について、『ライフ・アクアティック』(04)や『ダージリン急行』(07)、『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)でウェス組に参加している、コスチューム・デザイナーのミレーナ・カノネロはこう表す。「ウェスの映画の撮影は、毎回古い友人に再会して、新しい友人を作るような感じです。いつも特別で、すてきなホテルに全員が集まって、多くの時間を一緒に過ごせるようにしてくれました。撮影の後はみんなで食事をしたり、ウェスと話をしたり。ウェスのやり方は本当に特別で、とても感謝しています」。
カノネロはイタリア出身で、アカデミー賞衣装デザイン賞に9度ノミネート、ウェス・アンダーソンの『グランド・ブダペスト・ホテル』を含む4作品で受賞経験がある。『フレンチ・ディスパッチ』のなかで、最も気に入っている衣装という問いに「すべて」と答え、「どのキャラクターにもそれぞれの個性があり、それぞれの理由があります。頭から爪先までキャラクターのルックがはまっていれば、それがお気に入りになります。すべてのキャラクターが共存することで映画は成功するものだから、どのキャラクターも私のお気に入りと言えますね」と続けた。