大谷翔平、ウィリアムズ姉妹…映画『ドリームプラン』から紐解く、“天才”を育てるルールと共通点
第94回アカデミー賞で作品賞主演男優賞など主要6部門にノミネートされ、第94回アカデミー賞の最有力とも注目されるウィル・スミスが主演&プロデューサーを務めた『ドリームプラン』(2月23日公開)。世界最強のテニスプレーヤーと称されるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を、ゼロからテニスのワールドチャンピオンに育て上げた、テニス未経験の父親リチャードの「計画書=ドリームプラン」にまつわる“驚きの実話”が描かれる感動作だ。
トップアスリートを取り上げた映画はたくさんあるが、その親や家族にフォーカスした作品は少ない。そこで、スポーツジャーナリストとして活躍し、「天才を作る親たちのルール」「天才は親が作る」などの著書を発表してきた吉井妙子に本作を鑑賞してもらった。大谷翔平や石川佳純、杉山愛にイチローら数々のトップアスリートの“親”に取材してきた吉井は、リチャードの指導術や子育てになにを感じたのか?日本の親たちとの違いや共通点、“天才スポーツ選手”が育つ家庭環境、リチャードに感じたすごさなどを語ってもらった。
自分の人生の“主役”をスイッチする。リチャードと天才を育てた親たちとの共通点
「これまで300人を超える親を取材してきましたが、彼らが持つ特徴や指導の仕方、ルールをギュッと凝縮したのがリチャードという印象を受けました。ただ、日本でリチャードのような子育てをするのはなかなか難しいこと。劇中にも描かれていたように、終日テニスの特訓に明け暮れるビーナスとセリーナの姿を見かねた近所の人が、“厳しすぎる”と通報するくらいに強烈な育て方をしているわけですから。日本でそのままやったら、特に子どもが世間の目に耐えられないと思うんです。でも、やり切ったリチャードはすごいと思いましたし、姉妹もモチベーション高くそれに応えていましたよね」とリチャードの指導法を称賛したうえで、それが特別であることも指摘する。
プロの大会で優勝したテニスプレーヤーが、4万ドルの小切手を受け取る姿をテレビで見たリチャードは、ビーナスとセリーナが生まれる前から「世界チャンピオンにする78ページの計画書」を“独学”で作成。お金とコネがすべての富裕層、そして白人のスポーツでもあったテニスの世界で、お金もコネもない上に世界でも最悪の犯罪地帯コンプトンで、常識破りの計画を実行するため、深夜に警備の仕事をしながら日中は娘たちのコーチとして付きっきりで指導を行う。消耗品であるテニスボールは、テニスクラブで使用済みのものを拾い集め、仕事中にテニス雑誌を読みふけっては最新の情報をインプットするなど、彼自身もテニス漬けの生活を送っている。娘たちの才能を信じ、差別にも環境にも決して屈せず彼女たちを守り、人生を捧げて育て上げたリチャードについて吉井は次のように語る。
「リチャードは娘たちが生まれた時点で、2人を彼の人生の“主役”にしています。厳密に言えば、生まれる前から計画しているのですが、普通はそんなパターンはありません。当然、親にも人生があって、仕事もあるしやりたいことだってあるはずです。だけど、私が取材したトップアスリートの親たちのほとんどもまた、彼と同じように人生の主役を子どもにしているという共通点がありました」。
ビーナス&セリーナ姉妹が生まれる前から計画。破天荒でも親としての愛情を感じる瞬間
子どもが興味を示したスポーツをやらせるのではなく、最初からテニス一本に決めているのは、ある意味リチャードらしさだ。「もちろん、最初は貧しい環境から抜け出したいという経済的な理由も大きかったと思います。でも、映画では、お金のためにドリームプランを実行したのではないと伝わるシーンがありました。もし、プロにすることだけを考えていたのなら、15歳のビーナスが『プロの大会に出場したい』と主張した時に、リチャードはあんな折れ方をしないはずです」。
テニス界では10代からプロとして活躍し、大金を稼ぐ選手も少なくない。しかし、そういった選手たちが若くして燃え尽きてしまうのを目の当たりしたリチャードは、ビーナスがプロの大会に出場するのを大人になるまで禁止する。目先の栄光よりも、将来的に長く活躍できる選手になってもらいたいと考えていたからだ。
「普通なら最短距離で稼げる道を選ばせると思うんですよね。でも、リチャードはテニス以外の勉強もしっかりさせて、人としての素養を身につけさせます。タダ者じゃないと思いましたし、あれは指導者ではなく親としての愛情だと感じました」と説明し、「父親として子どもをいかに幸せにしようかという気持ちが伝わってきた」と感銘を受けたようだ。