大谷翔平、ウィリアムズ姉妹…映画『ドリームプラン』から紐解く、“天才”を育てるルールと共通点
リチャードのブレない信念にある絶対的裏付け。「チャンスがあるなら直接、話が聞きたい」
リチャードの破天荒さが目立つ作品だが、吉井の印象に残っているのは、彼の妻、オラシーンの存在だという。「『奥さん、すごいな』と思うシーンがたくさんありました。ビーナスとセリーナが折れずにプレーを続けられたのも、お母さんのフォローがあってこそだと思いますね。(リチャードの指導が厳しすぎると通報した)近所の住人に抗議に行った時も、言葉は少ないけれどものすごい圧を感じたし、リチャードに対しても『私たちは対等だよ』と示す姿勢がすばらしいと思いました」。
オラシーンは看護師として家計を支え、リチャードと同様に娘たちの成功を信じている。それだけに、ビーナスとセリーナが世間に注目され始め、家族の暮らし向きがよくなったことを“俺のおかげだ”と言い放つ傲慢なリチャードを、彼女は毅然とした態度で否定する。
「スポーツは勝ち負けがはっきりしているからこそ、選手と親、コーチ、マネージャーなど周囲のスタッフみんなが対等であることが重要なんです。テニスは特にそうで、“クルー”と呼ばれる選手を中心とした一つのチームで行動しているからこそ、互いを尊重し、高め合っていける関係でなければいけないと思われます」。
また、吉井にはオラシーンの存在と同じくらい、気になるものがあったようだ。「『78ページの計画書』をリチャードがどうやって作ったのか。どこから得た情報で、どうして姉妹が生まれる前にそれを作ることができたのかを、ぜひリチャード本人に聞いてみたいです」。
実際に取材をして、ドリームプランに書かれていることに裏付けがあるのかを「一つ一つ検証していきたい」と語るなど、ジャーナリストとしての好奇心もくすぐられたようだ。「ブレない信念の後ろには絶対的根拠と裏付けがあったはず。そしてなにより、姉妹をプロのテニスプレーヤーにする環境作りにも自信があったと思います。きっとありとあらゆる専門書を読んだはずです」と力説する。
エンタテインメントとして、子育て、教育映画としても楽しめる!
『ドリームプラン』はリチャードとビーナス&セリーナ、そしてオラシーンらの家族の絆を描いた物語であると同時に、テニス映画としても一級品。特に、試合シーンの臨場感は迫力満点で、プロの大会に出場したビーナスが格上の選手相手に果敢に立ち向かっていく姿に、観客は思わずスクリーンに釘付けになり、心を揺さぶられてしまうはず。「本当のテニスの試合を観ているみたい!」と吉井も興奮気味に思い返す。
「私が青春時代を過ごしたころのファッションやヘアスタイルの再現度もすごかったし、あの施設はどこで撮影したんだろう?と興味深いところもたくさん出てきました。私は、子育てや教育映画として楽しみましたが、スポーツ・エンタテインメントとしてもクオリティの高い作品だと思います。子どもを豊かに育てるためのヒントが隠されているし、そこにエンタメ性が盛り込まれているので、いま子育て中の親御さんにも楽しみながら観てほしいです」。
さらに、吉井は「最後にこれだけは言いたい!」と付け加える。「リチャードを真似することはオススメできません。もちろん、できるのだったら挑戦する価値はあります。しかし、日本の社会では絶対無理なこと。なにかヒントが見つかればいいかなと、気軽な気持ちで観るのがいいと思います」。
取材・文/タナカシノブ