大谷翔平、ウィリアムズ姉妹…映画『ドリームプラン』から紐解く、“天才”を育てるルールと共通点
天才スポーツ選手を育てた親たちは「意外と普通。ただし、環境作りは完璧です」
子どもの叱り方や褒め方で悩んでいる親は多いはず。本作では、ジュニアの大会に出始めたビーナスが次から次へと優勝し、セリーナや姉たち(実はビーナスの上にも3人の姉妹がいる)とはしゃぐシーンがあるが、娘たちが天狗になりかけるところで、リチャードが「謙虚になれ」「負けた子たちの気持ちを考えろ」ときつく諭している。この時の対応が「すばらしい」と吉井は振り返る。
「すごく大事なことで、結果が出てくると周りがチヤホヤするので、選手だけじゃなく親までも勘違いしてしまうことがあります。なので、鼻を“へし折る”までいかず、天狗になりそうな鼻をキュッともぎ取ることは親としての役割なんです。リチャードはそのさじ加減がとてもうまかったですね」と絶賛。
そしてそのうまさの理由を「ずっと子どものことを見ているので、もぎ取るべきタイミングや間合いがわかるんです。褒めるべき時、喝を入れるべき時をしっかり見極められるのは、なにより子どもをしっかり観察しているからです」と分析する。
吉井が取材してきたアスリートの親たちも、我が子に時間をかけるだけでなくしっかり“観察”していたという。それが、著書に登場する選手たちに反抗期らしきものなかったことにつながるのだそうだ。
「例えば、大谷翔平くんは皆さんもご存知のように、本当に素直でいい子です。親が自分で物事を考えるように促していたのも大きなポイントだと考えられます。親子で交換日記もしていたそうで、翔平くんがその日の練習内容を書き、それに対してお父さんが改善策などをアドバイスする。日記の内容は野球だけじゃないと思いますが、そういうやり取りがあったからこそ反抗期が生まれなかったと思っています。“ちょっとやばいぞ”と親が感じたら、大きな傷になる前に、例えていうなら、トゲが刺さった程度で抜くことができるので、大きな反抗期につながらないわけです」。
また、吉井は「天才は、勝手には育たない」とキッパリ。「天才の捉え方にもよるけれど、スポーツ選手であっても、芸術家であっても、勉強であっても、環境を与えなければ天才は育ちません。子どもは生まれた時は脳の神経がまっさらな状態です。その神経をどう変えていくのかは、環境のなかでしか作れないのです。五感から入ってくる情報を得て、神経系を構成する細胞であるニューロンで意思がどのように形成されるのか。五感に入る情報の環境作りを、親がどのように行うのかがとても大事になってきます」。
一方で、スポーツ選手には優秀なコーチの存在も欠かせない。本作でも、ビーナスとセリーナに将来性を感じた有名コーチが無償で指導してくれるのだが、その指導法を巡って、リチャードは何度も口出ししてしまう。このことについて吉井は、日本でトップアスリートを育てるには、コーチと親の関係も大事だと力説する。
「リチャードのようにコーチに物申すなんて、日本ではありえません。しかも、いかにビーナス&セリーナ姉妹に才能があるかをプレゼンし続け、ようやく指導してもらえることになったんですから(笑)。コーチに委ねることが多いのは、指導方針について親とコーチが対立して困るのは、子ども本人だからです。親とコーチ、どちらが正しいのかわからず混乱し、潰れてしまうジュニア選手も多くいますから。そういう意味でもウィリアムズ家は稀有ですね」。
続けて、吉井が取材したトップアスリートの親たちは、練習や試合の内容について家庭内で進んで子どもに聞くことはしないと話す。「例えば、大会結果についてあれこれ口出しすることはありませんが、その分、しっかりと子どもの様子をうかがっています。子どもがなにかを言いたそうにしていて、悩んでいるように見えたのなら、邪魔になりそうなものを避けてあげて、本人の意思を聞き、尊重します。子どもが答えられない時は、『お父さんとお母さんはこう思うけど、どうかな?』という聞き方をします。そうすることで子どもの意思が引き出せます」。