“愛と嫉妬と欲望”が絡み合う、大人のための極上のミステリー…『ナイル殺人事件』の人間ドラマは想像以上に深かった!
本年度アカデミー賞で注目を浴びる、ケネス・ブラナーが監督&主演
本作の製作にあたっては、同じくクリスティ原作のヒット作『オリエント急行殺人事件』を手掛けたチームが再結集。前作に続き、監督、プロデューサー、そして主人公の探偵エルキュール・ポアロ役を名優ケネス・ブラナーが務めている。そんなブラナーは、監督作『ベルファスト』(3月25日公開)が本年度アカデミー賞で7部門ノミネートを果たし、受賞に期待がかかっている。
さらに事件に関わる登場人物たちを演じるオールスターキャストには、「ワンダーウーマン」シリーズのガル・ガドット、Netflixオリジナルドラマ「セックス・エデュケーション」でスターとして躍進中のフランス出身のエマ・マッキー、『ブラックパンサー』(18)のレティーシャ・ライト、オスカーノミネート4度の実力派アネット・ベニングなど、国際色豊かな顔ぶれが集まり、映画を盛り上げている。
映画館で豪華クルーズ体験も!エジプトの観光名所が登場
ナイル川クルーズ旅行とあって、劇中では、ギザのピラミッド、スフィンクスといったエジプトの観光名所がお目見えする。また、かつてクリスティも滞在して「ナイルに死す」を執筆し始めた場所として知られる、豪華絢爛の5つ星ホテル、ソフティル・レジェンド・オールド・カタラクト・アスワンが登場するのは、原作ファンもうれしいところ。さらに事件の起点となる場所として、世界遺産に認定されたアブ・シンベル神殿も登場する。エジプト旅行気分に浸れるのも、映画館で観る醍醐味の一つだ。
光り輝くティファニー・ダイヤモンドを映画のために再現!
そして、1930年代のセレブのスタイルを反映させたゴージャスなファッションも大きな見どころ。スタイリッシュなリネットの衣装は当時の映画スターが好んだ上品な淡いピーチの色調を使い、ジャクリーンの衣装には赤を多く用いて、彼女の情熱や怒りを表現。また、シンガーのサロメは自由で官能的なボヘミアン・スタイル。ブークの母ユーフェミアは、マレーネ・ディートリヒやキャサリン・ヘプバーンといった当時の女優を彷彿とさせるエレガントなパンツスタイルを中心にするなど、各キャラクターの個性も反映させている。
そんなキャラクターたちのファッションを輝かせる数々のジュエリーや腕時計は、ティファニーのもの。なかでも、物語で重要な役割を果たすのが、リネットが身に着けるイエローダイヤモンドのネックレスである。この映画のために特別に再現されたティファニー・ダイヤモンドは、職人の高い技術によって、あらゆるダイヤモンドから美を引きだそうとするティファニーの理念を象徴するような存在。人々の心を魅了するカラーダイヤモンドの圧倒的な美しさは必見だ。
王道をゆく本格推理モノとして、最後の瞬間までスリル感を味わえると同時に、理性も善悪の観念をも超えてしまう愛のパワーにグッと引きつけられる映画『ナイル殺人事件』。たとえ時代が違っても、変わることのない愛の複雑さの本質をとらえ、深いヒューマンドラマに満ちた本作は、まさに大人のための危険なミステリーなのである。
文/石塚圭子