夫婦愛か、ホラーか、コメディか?斬新な“不倫映画”『先生、私の隣に座っていただけませんか?』が仕掛ける巧みな罠
最後まで油断大敵!二転三転する巧妙な復讐劇
不倫夫に対する妻の“復讐”を、観客を巻き込んだ一種の心理戦として、そしてどこまでもエンタテインメントとして見せる。すなわちこれはデヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』(14)に近い方向性で“不倫”を描いた作品といえるかもしれない。
俊夫の行動によって彼の不倫を疑う佐和子に対し、俊夫は佐和子の描いた漫画のネームだけでしか不倫を疑うきっかけを与えられない。意を決して「あれ実話?」と訊ねてみても、下手をすれば自分の不倫を認めることにもなりかねない瀬戸際に立たされる。路上教習中の佐和子の後を尾けようとしてもうまくできず、挙句の果てに佐和子はドライブに行くと言って出掛けたまま帰って来ない。そして突然ファックスを使ってこちらの心を揺さぶるようなネームの続きを送ってくるのである。
漫画では当然のように登場人物たちの表情や台詞、心の声さえも視覚化される。それによって頭のなかで実写のイメージを膨らましてしまう俊夫の想像力を、より鮮明ではっきりした実写映像で見せられる観客は、俊夫以上に迷宮に引きずり込まれてしまうことだろう。そしてついに帰ってきた佐和子。その隣には新谷の姿が。畳み掛けるように二転三転していくクライマックスに、ただただ翻弄されること間違いなしだ。
一度観て新鮮な驚きを味わい、結末を知った上で2度目3度目と観ていくことで、初見時に見落としてしまった幾つもの伏線を確認することこそ、Blu-rayなどのホームメディアでの映画鑑賞の醍醐味のひとつ。しかもそれが、本作のように複雑な構造がカギとなった作品であれば尚更だ。キャスト陣の卓越した演技と気鋭作家のアイデア全開の仕掛けの数々は、観るたび新たな驚きを与えてくれると同時に、さらなる深みへと引き込んでくれるだろう。
文/久保田 和馬
価格:5,170円(税込)、4,180円(税込)
販売元: KADOKAWA/角川書店