中井貴一「志の輔師匠の偉業を後世に残したい!」念願の企画『大河への道』は「裏方に徹するつもりでした」
立川志の輔の新作落語「大河への道―伊能忠敬物語―」を中井貴一主演で映画化した『大河の道』(5月20日公開)の完成披露試写会が1日、丸の内ピカデリーにて開催され、中井、志の輔師匠が揃って登壇した。
本作の映画化を熱望していた中井だが、きっかけは友人のひとことだったという。中井主演で2016年に「志の輔らくご」新作落語初舞台化となった「メルシー!おもてなし~志の輔らくごMIX~」との出会いを振り返り、「友人から『大河への道』という作品、やったらいいよ、ってすすめられて。楽屋の立ち話程度に受け止めていたのですが、せっかくの機会だからと志の輔師匠に『次、いつやりますか?』と訊ねたら『やらない、当分やらない』という答えが返ってきて(笑)。師匠の落語を聞くと頭に映像が浮かぶ。そういう出会いはなかなかないから、ぜひ一度見たいと伝えたところ、記録用に残しているDVDを貸していただきました」と経緯を明かす。
電話で「映画化したいです」という感想をもらった際には中井の褒め言葉だと思ったと微笑む志の輔師匠。「おもしろかったです、楽しかったですではなく、中井さんは映画にしたいくらいの作品ですって褒めるんだなって」と、映画化のオファーを当初真剣に受けて止めていなかったという。「落語だからオチをつけるための話になっています。史実や数字を後からいろいろとツッコまれる可能性がありますよ、大丈夫ですか?」と念押したところ、「大丈夫です!専門家が揃っているので、いい加減なところはちゃんと直しますから」という中井の返答があったので、映画化に踏み切ったなどと明かし、笑いを誘っていた。「中井さんの褒め言葉に『冗談はやめてくださいよ』と返答しなくてよかったといま、心から思っています。今日みなさんにお披露目できるのは、中井さんにDVDを貸し、オファーを冗談と終わりにしなかったからこそ。2つの出来事を乗り越えた自分を褒めてあげたいと思います」と熱弁し観客を笑わせた。
原作者としてだけでなく、役者としても映画に参加している志の輔師匠。「京都の撮影所で、中井さんと松山ケンイチさんに挟まれて演じるシーン、想像してください。緊張とは違う、浮いたような感覚を味わいました」とワンシーン、ワンカットの撮影での心境を伝えた。これに対し中井は「僕も当初は企画で参加し、裏方に徹するつもりでいました。でも、プロデューサーに『なに言ってるの、出るに決まってるでしょ』みたいに鼻で笑われて(笑)。だから、師匠も原作とか偉そうに言ってる場合じゃない。出ちゃいなさいよ、という気持ちでオファーしました」とニヤニヤ。続けて「死なばもろとも、の気持ちでした。失礼してすみません」とお詫びしながらもニヤリと笑う中井に向かって、志の輔師匠が「本当にねぇ、失礼でしたよ」と笑顔で返すなど、息ぴったりのトークを繰り広げた。志の輔師匠の返しに負けじと中井は「(志の輔師匠の登場した)あのシーンが一番よくできていたので、忌憚ない意見をお願いいたします」と呼びかけ、さらなる笑いを誘っていた。
原作の「大河への道―伊能忠敬物語―」というタイトルだが“伊能忠敬が出てこない伊能忠敬物語”という画期的なもの。「その発想がすごい」と強調する中井は「歴史はロマンだと思っています。後世の人の解釈で歴史を作っていくものだと。僕は、志の輔師匠のロマンを映画にしたいと思いました。伊能忠敬はこれから大河になるかもしれないほどの偉人だけど、僕は志の輔師匠の偉業を後世に残したいという想いで映画化しました」と改めて、その熱い胸の内を明かした。
イベントでは主題歌アーティストを玉置浩二が務めることも発表された。楽曲「星路(みち)」について中井は「すごくいい曲です。エンディングに流れるのですが、オープニングから流したい。なんだったら、映画でずっと流れていてもいいくらい」と大絶賛。「最後まで席をたたずにお聴きいただけたらうれしいです」とアピールしていた。志の輔師匠は「企画からの5年間、すごく幸せでした」と改めて中井に感謝。「偉業を成し遂げた伊能忠敬の周りにはすばらしい人たちがいたということを極上のコメディ、エンタテインメント作品に仕上げていただきました。ありがとうございます」と喜びを伝えた。
試写会のチケットは倍率10倍だったことに触れ、中井は「観たい人が10倍いた計算になります。ということは、みなさんにはどれくらいの使命があるのか理解していただき…」とニヤリ。来場者に宣伝隊としてのプレッシャーをかけつつ「おもしろくなかったら、映画を観たことも記憶から消してください。おもしろかったら、誰かに伝えてこれからの人生を過ごしてください」とさらなるプレッシャーをかける中井に、会場から盛大な拍手が贈られた。
最後に中井はエンタメの現在の状況にも触れ、「映画、舞台、落語など。笑いや涙を共有する時間を持てる日常が来ることを願っています。お力添えをお願いします」と深々とお辞儀し、イベントを締めくくった。
取材・文/タナカシノブ