『ザ・バットマン』のマット・リーヴス監督「今作はバットマンが“覚醒”する映画にしたかった」
「きっといままで見たことのないリドラーになるのではないかと思いました」
――『ジョーカー』(19)の大ヒットも記憶に新しいところですが、今回リドラーをメインのヴィランに設定した理由とその魅力を教えてください。
リーヴス「すでに、ブルースがバットマンになるオリジンものは過去作で見事に描かれていたので、今回は初期のころに設定しつつ、バットマンが世界一の探偵となって事件を解決していく物語にしたいと思いました。しかも、単なる探偵・捜査ものではなく、もっとパーソナルな物語にしたかった。そこで、連続殺人犯がバットマンに直接手紙を残したらどうかと考えたのです」
――バットマンは誰もその正体を知らないという匿名性を持ち、神出鬼没でミステリアスな存在はずなのに、リドラーは彼の正体を知っている点が脅威となっていきますね。
リーヴス「バットマンは、幽霊や幻のように、影から現れる邪悪な力のような存在です。でも、誰かが犯罪現場で彼に宛てた手紙を残すということで、ブルースはとても不安を覚え、どんどん心を乱されていきます。物語が進むにつれて、市長や警察本部長といった社会の柱であるはずの人たちを殺害した犯人が、彼らの真実を明らかにするだけでなく、最終的にはブルース自身の家族にも及ぶ問題に発展していきます」
――そのストーリーは、実在の連続殺人事件「ゾディアック事件」からインスピレーションを受けたそうですね。
リーヴス「そうです。現実世界で犯人が捕まることのなかったゾディアック事件では、暗号、要するになぞなぞを残していったわけなので、すぐにリドラーのことを考えました。暴力的な行為の跡に、誰かが暗号化されたメッセージを残すというのは、とても恐ろしいし、心がザワザワします。きっといままで見たことのないリドラーになるのではないかと思いました」
「バットマンは闇の中から登場しないかぎり成立しない」
――脚本作りにおいて一番こだわったのはどんな点でしょうか?
リーヴス「僕は、キャラクターが経験することの内側に、いかにして観客を連れていけるかという、エモーショナルな視点をなにより大事にしたいと思っています。ブルースの心の声や、街をパトロールしている彼の内面を、コミックスに忠実でありつつ、地に足の着いた作品にもしたかったのです」
――確かに本作は、そういった地続きでリアルな物語になっていました。
リーヴス「バットマンは非実用的な存在で、闇の中から登場しないかぎり成立しない。セブンイレブンのようなコンビニやスーパーであのスーツを着ていたら浮いてしまうでしょ(笑)。だから文字通り、最初からスーツをどうするのか、という課題がありました。ケープとカウル姿で、ほかの警官がいる犯罪現場に足を踏み入れた時、周りはどうリアクションしたらいいのか?と、考慮した結果、やはりあの姿では歩き回れないと考えました。だから、ゴッサム・スクエアをパトロール中の彼は、きっとバットマンの格好をしていないし、有名な大富豪であるブルース・ウェインの格好もしてないから、風来坊のような格好にしようというアイディアが浮かびました。
それは、コミックスから来ていて、フランク・ミラーとデビッド・マツケリーの『バットマン:イヤー・ワン』で、イーストエンドに向かうブルースが顔に傷跡を施すシーンがありますが、その記念本の中にマツケリーに宛てたミラーのメモがあって『トラヴィス・ピックルそっくりコンテストに勝ったような姿のブルース』とあるんです。帰還兵のようなルックスで、まさに街の一部のように溶け込んでいたので、今回もその線でいきました。そんなふうに、ひとつひとつの行動について、ディテールを綿密に考えていきました」