『ザ・バットマン』のマット・リーヴス監督「今作はバットマンが“覚醒”する映画にしたかった」
「映画は作られる時代と関連性を持たせることが重要」
――バットモービルの初登場シーンも印象的でした。
リーヴス「バットスーツで街を徘徊するのと同じように、あのクレイジーなバットモービルをバットマンが乗り回していると、絶対に目立つ(笑)。だから僕はスーツと同じように、バットモービルにも、威嚇する目的があるはずだと捉えました。バットマンはどう現れるのかと、彼自身もきっと計算しているし、闇から現れることで脅威を感じさせようとしているので、車が獣のような恐ろしいものとして描かれている、スティーブン・キングの『クリスティーン』やそれを基にした映画のことを考えました。そんなふうに、現実と地続きのような整合性を感じるものにするのは大変でしたが、おもしろくもありました」
――ゴッサムの雰囲気もかなりリアルだったので、より世界観に没入できました。
リーヴス「ゴッサムは特にどこかの街というわけではありません。明らかにアメリカの東海岸の都市に見えるし、非常に腐敗していますが、それ独自の街にしたかったのです。そしてその腐敗した街は僕たちが作り上げたものだと感じてほしかった。だから、SNSやインターネットにいたるまで、いまの世界を強く意識したものにしようと考えたんです。SNSのバイラル性、リドラーがそれをどう利用するのか、そしてそれが街をどのように混乱させるのかが重要です。これらはすべて、僕たちがいま生きている世界の一面であり、観客にもそれを感じてもらいたかったのです」
――まさにゴッサムは、絵空事ではない世界観になっていました。
リーヴス「バットマンのすばらしいところは、80年間続いている歴史があることです。そのなかで新たにゴッサムという街が描かれるたびに、僕たちは街との関わり方を考えますが、街に腐敗や犯罪がまったくない状態というのはありえない。それが人類だし、特に大都市ではそうです。だから、映画は作られる時代と関連性を持たせることも本当に重要です。観客が『ゴッサムには行ったことがないけど、自分が住んでいる街とそう違わないから、どんな場所なのかは理解できる』と感じられるようなものにしたかった。ファンタジーでありながら、見た時に現実とリンクするような作品にしたいと考えました」
――「復讐で過去は変えられない」という台詞は、まさにいま、世界に響くメッセージだと思いました。本作に込めた想いを聞かせてください。
リーヴス「バットマンは街を良くしようと行動するスーパーヒーローではあるものの、その実、彼を突き動かしているのは、自分の身に起こった事件に起因する復讐心です。リベンジを望む気持ちは大なり小なり、僕たちみんなの中にあると思いますし、好ましくないことが起きれば、復讐を望んでしまう。でも復讐は諸刃の剣で、それが正しい道なのかどうかと問う点が、とても刺激的でおもしろいアイディアだと思いました。
観客には僕たちがまさに、バットマンにやってほしいと思うことを彼がしていく様子に感情移入してもらってから、それが果たして正しい道なのかと、改めて考え直さなければいけないような作りにしたかった。それはバットマン自身が答えなければいけない問いでもあり、言うなれば本作は、バットマンが“覚醒”する映画にしたかったので、そうなっていればうれしいです」
取材・文/山崎伸子