アカデミー賞授賞式直前!濱口竜介監督、西島秀俊らがLAで記者会見。スピルバーグとの対話も明かす - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アカデミー賞授賞式直前!濱口竜介監督、西島秀俊らがLAで記者会見。スピルバーグとの対話も明かす

イベント

アカデミー賞授賞式直前!濱口竜介監督、西島秀俊らがLAで記者会見。スピルバーグとの対話も明かす


昨今のアカデミー賞で海外作品が評価されるようになり、『ドライブ・マイ・カー』がアメリカを含む世界中で評価されたことは、これからの日本映画に新たな門戸を開くことにもつながる。現在の日本映画界に対する問題点について聞いてみたところ、濱口監督は「日本映画全体に対する視野は持ち合わせていませんが」と前置きしたうえで、「おそらく、お互いに仕事をする人間に対するリスペクトが足りない気がします。これは映画業界だけでなく、日本全体で足りないんだと思います。自分の身のまわりにいる人を尊重しつつ、一方で自分がやりたいことをやるにはどうコミュニケーションをとるのか。根本的なことをちゃんとやらなくてはいけないと思います」と答える。後進に対するアドバイスは「好き勝手やってください、ということだけです。僕も好き勝手やらせてもらってきたので、後輩のためになにか特別にする必要はなく、これからも映画を作るだけでいいと思っています」と述べた。

西島秀俊が『ドライブ・マイ・カー』撮影時の思い出と現場の重要性について語る
西島秀俊が『ドライブ・マイ・カー』撮影時の思い出と現場の重要性について語る

西島は、「濱口監督はとにかく俳優に対し、『違和感があったら伝えてください』と言い続けていました。キャラクター同士が近づく時に、俳優同士で無理に近づくとどうしても歪みが生じることがあります。濱口監督は映画のなかも同様に、撮影でも丁寧に時間をかけて僕たちがお互いに知り合い、近づいていくように演出していました。こういうことがほかの現場でも実現してほしいと思いますし、僕自身も自分ができる範囲で、これから関わっていく現場でプロセスを大事に進めていくスタッフの一人になりたいと思います」と語った。

霧島は、「日本映画は厳しい予算で作られている作品も多いのですが、この映画が注目されたのを機に、業界全体が考えを改め、どのスタッフの方々にもきちんと(休暇や賃金が)行き届くようにしていただきたいです。できれば余裕を持ったスケジュールで、安全に撮影を行えたら。そして、日本映画はもう少し夢を見られる現場であってほしいと思います」と、感じていることを共有してくれた。岡田は「濱口監督の現場で、リスペクトがとても大切なものだということを僕自身も体験しました。映画界というよりは、自分の手が届く範囲内から少しずつやっていければいいなと思います」と語る。

濱口竜介監督が感謝の気持ちを伝える
濱口竜介監督が感謝の気持ちを伝える

最後に濱口監督は、この環境を作るにはプロデューサーの尽力なくては成し遂げられなかったと感謝を述べた。「時間もかかればお金もかかるけど、『お互いを尊重しながらゆっくり進めていくこと、それがこの映画の価値になるんだ』と、映画の現場の全体像を描くプロデューサーのみなさんが環境を作るよう頑張ってくれました。一人一人をリスペクトする現場で映画を作ると、すばらしい結果が起こりうるという実例になったらとても嬉しいと思っています」。

昨今のアカデミー賞や映画祭では、映画と政治や社会状況は切っても切り離せないものとなっている。世界に対し映画ができることとは?との問いに対し、濱口監督はこう持論を語った。「映画になにができるか、文化になにができるかという問題は、例えば震災の時にも取り沙汰されましたが、映画や文化の力を過大評価すべきでないと思います。映画には戦争を止める直接的な力はありません。戦争は起きるべきではない、すぐにでも収束してほしいと心から思っていますが、緊急事態が収束した時におそらく効果を発揮するものが文化や映画だと思います。(この映画の)ベースになっているのは日常的な感情です。誰かを愛したり、誰かを大切にしたりという価値観が映画のなかに自然と描かれていることが大切で、それは実際にそういう生活が存在しないと絵空ごとになってしまいます。岡田さんも言われていましたが、我々ができることはそんなに多くはないです。でも自分ができることを一つ一つやっていくしかない。それがなにかにつながっていくと信じるしかないと思います」。

【写真を見る】濱口竜介、西島秀俊、岡田将生、霧島れいかが“泣いた"アカデミー賞ノミネート作品とは?
【写真を見る】濱口竜介、西島秀俊、岡田将生、霧島れいかが“泣いた"アカデミー賞ノミネート作品とは?


作品賞候補作のなかで印象に残っている作品については、濱口監督が「緊張感が途切れずに観たのは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』、単純に感動したのは『ドリームプラン』、『コーダ あいのうた』は泣きました」、霧島が「すばらしいなと思ったのは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で、映画館で恥ずかしいくらい泣いてしまったのが『コーダ あいのうた』です」、西島は「『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と、『ドリームプラン』のウィル・スミスさんはすばらしかったと思います」、岡田は「久々に、溺れるんじゃないかというくらい泣いたのが『コーダ あいのうた』でした」を挙げていた。

忙しいスケジュールを縫うような短い滞在期間だが、世界最大の映画の祭典でいろいろなことを吸収したいと抱負を語る濱口監督と俳優たち。授賞式の結果にも期待して待ちたい。

取材・文/平井伊都子

作品情報へ

関連作品