濱口竜介の理知的な語り、独自の映画論に唸る。『ドライブ・マイ・カー』における“間”の解釈とは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
濱口竜介の理知的な語り、独自の映画論に唸る。『ドライブ・マイ・カー』における“間”の解釈とは?

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濱口竜介の理知的な語り、独自の映画論に唸る。『ドライブ・マイ・カー』における“間”の解釈とは?

全米映画批評家協会賞作品賞、第79回ゴールデングローブ賞非英語映画賞などアメリカでの受賞が続いている『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督が、米ロサンゼルスのジャパン・ハウス・ロサンゼルスが主催したオンラインイベントに登壇した。

第94回アカデミー賞の各賞ノミネーション発表は、イベントから1週間後の現地時間2月8日。いまの心境を「アメリカで『ドライブ・マイ・カー』が受け入れられる状況は想像していなかったので、とても驚いています。アカデミー賞についても聞かれますが、こればかりは成り行きで、どうなるかはわかりません。いまの時点で十分評価をいただいていると感じているし、このことによって観客が映画館へ向かい、この映画を観てくれるというのが一番嬉しいことです。もし“なにか”が起きたらそれはご褒美だと思っています」と率直な感想を述べた。

【写真を見る】国内外で数々の賞を受賞、米国アカデミー賞のノミネートも期待される『ドライブ・マイ・カー』
【写真を見る】国内外で数々の賞を受賞、米国アカデミー賞のノミネートも期待される『ドライブ・マイ・カー』[c]2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

ロサンゼルスおよびハリウッドの印象については、「自分が最も影響を受けてきたジョン・カサヴェテスは、ハリウッドで俳優をやりながらインディペンデント映画を作る、世界でもあまりいない存在でした。ハリウッド映画自体も大好きですし、彼のインディペンデントな映画の作り方にずっと勇気づけられてきています。この間、生まれて初めてロサンゼルスに降り立ち『これがカサヴェテスたちが仕事をしていた街か』と思うと非常に興奮するところがありました。ぜひまた訪れたいと思っています」と、抱負を語った。

濱口監督が最も影響を受けてきた人物と語る、ジョン・カサヴェテス(1929~1989)
濱口監督が最も影響を受けてきた人物と語る、ジョン・カサヴェテス(1929~1989)[c]写真:EVERETT/アフロ

イベントのテーマは「日本映画における間(スペース)」。建築学を専門とするカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) の阿部仁史教授と、ワシントン大学のケン・タダシ・オオシマ教授による『ドライブ・マイ・カー』における「間」の解釈のもと、濱口監督は「“間”に関してあまり概念的に考えたことはありませんでしたが、撮影現場では『もうちょっと間をとってください』など、よく使う言葉です」と話を始めた。


村上春樹の原作小説と映画の「間(あいだ)」について「映画とはそもそもフィクションと現実の間にあるもの」とする。「カメラを使って映画を作る最小の単位に“ショット”があり、空間と時間を区切るものです。まず、フレーム(画角)によって空間を区切らなくてはいけない。そしてカメラの回し始めと終わりにより、時間を区切らなくてはいけない。どこからどこまでを区切るかが監督の仕事だと言ってもよいと思います。

この作業において、現実とフィクションの間(はざま)がすでに発生します。というのは、カメラというのは人間の知覚能力より遥かに優れた光学的記録能力を持っているので、現実そのままの知覚的記録がなされます。一方で、これは現実のすべてを記録したものではなく、空間的・時間的断片としてしか捉えることができません。これは現実の映像ではなく、フレームの外側やカメラを回し始める前になにが起きているかわからないので、そこには常にフィクションの可能性があります。ショットを撮るという映画の最小単位の中に、すでにフィクションと現実が存在しています。この断片と断片を組み合わせ、現実とはまったく違うもう一つの現実みたいなものを作り上げていくのが劇映画、フィクションになります」。

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