瀬々敬久監督が明かす令和における「とんび」映像化の意義「親から子へ、そして孫へとバトンを渡していく」

インタビュー

瀬々敬久監督が明かす令和における「とんび」映像化の意義「親から子へ、そして孫へとバトンを渡していく」

妻を不慮の事故で喪った不器用な男が、男手ひとつで幼い息子を育てようと大奮闘。その息子も、やがて親元を旅立つ日がやってくる…。いつの世も変わらぬ親子の絆を描いた、累計60万部を超える重松清の同名ベストセラーが、初めて映画化された『とんび』(4月8日公開)。

重松清の同名小説を初映画化した『とんび』
重松清の同名小説を初映画化した『とんび』[c]2022『とんび』製作委員会

「ロケ地はきれいな保存地区ではなく、漂う生活感を大事に選んだ」

人気小説ゆえすでに過去2度もドラマ化されているが、監督を引き受けた瀬々敬久は、「昔から描かれ続けてきて、年齢を問わず誰しもに馴染み深い、日本ならではの伝統的な大衆文学だと感じています。ドラマ版もありますが、引き継がれてきたその文脈に挑戦したい、という気持ちがありました。もちろん、好きな重松さんの作品であることも理由です」と振り返る。

重松作品について語る瀬々敬久監督
重松作品について語る瀬々敬久監督撮影/野崎航正

同時に、自身との深いつながりも感じ取ったに違いない。「舞台である岡山県の瀬戸内海沿いには干拓地がたくさんありますが、僕の出身地、大分県にも干拓地があって、その独特な風景に自分の記憶ととても近しいものを感じました。また重松さんは昭和38年(1963年)生まれ、僕は昭和35年(1960年)生まれと、ほぼ同世代でもあって」と続ける。「物語の父親、ヤスの名前は安男ですが、うちの父親はやすじで、同じ“ヤス”なんですよ(笑)!」と悪戯っぽく笑う。

重松清の「とんび」で描かれた昭和時代は、瀬々敬久監督の経験と重なる部分がも多いという
重松清の「とんび」で描かれた昭和時代は、瀬々敬久監督の経験と重なる部分がも多いという[c]2022『とんび』製作委員会


舞台は昭和37年、瀬戸内海に面した広島県備後市で幕を開ける。懐かしい昭和を感じさせる町の様子が、物語の世界観にスッと入り込ませる。「ドラマ版で使われた場所を避けて撮影地を探し、古い街並みを残しつついまも生活感がある金光町という寺社町で撮ることになりました。とても生活感があり、いまでも地域性や町の人たちの交流が残っていて、近所の酒屋が差し入れを持ってきてくれるようなところです。きれいな保存地区ではなく、漂う生活感を大事に選びました」。この“生活”にあふれた町が、背景のみならず物語の土台として、大きな役割を担っている。

映画版『とんび』は生活感のあふれた町で撮影を行われた
映画版『とんび』は生活感のあふれた町で撮影を行われた[c]2022『とんび』製作委員会

「実は阿部さんの衣装は、ひとつひとつ手作りなんだ」

最愛の妻の妊娠にもうまく喜びを表現できない、不器用なヤスを演じるのは、前作『護られなかった者たちへ』(21)でも瀬々監督と組んだ阿部寛だ。「実は本作の方が企画は先。ただ撮影は『護られなかった者たちへ』のほうが先で、間に『明日への食卓』を挟み、そのあとで『とんび』の撮影に入りました」と1年間で3本の作品も撮ったというから、その多忙ぶりに驚かされる。『護られなかった者たちへ』では主人公(佐藤健)を追いつめる熱血刑事を演じた阿部が、本作では同じ熱い男でもコテコテに明るい、まさに陰と陽でいうと真逆の男を嬉々として演じている。

【写真を見る】長身のため、阿部寛の衣装は作業着すらひとつひとつ手作りだった!
【写真を見る】長身のため、阿部寛の衣装は作業着すらひとつひとつ手作りだった![c]2022『とんび』製作委員会

「前作の阿部さんは、すごくフラットな感じで現場に立たれていた印象が強かったですね。相手がこうきたらこう返そうという無の心境に近いというか、芝居としては受け身というか。一方『とんび』はヤスが中心の物語であり、周りを引っ張っていかなければならない。取り組み方も真逆でしたし、まったく違う感じで現場に立たれていましたね」と思い返す。「準備段階から衣装なども含め、いろいろとこだわられていました。阿部さんは長身なので、古い時代のズボンもなかなか決まらなくて。しかも、阿部さんがこのような肌着系作業着や手ぬぐいを巻いたりの衣装をあまり着ている印象がないだけに、とても丁寧に作っていきました。実は阿部さんの衣装は、ひとつひとつ手作りなんですよ(笑)」。


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