黒沢清が語る、40周年『E.T.』の色褪せない感動「“最新作”と思って観てほしい」
「よくこれをやった…」ラストからあふれるスピルバーグ監督の強かさ
公開当時、すでに映画の世界で活動を始めていた黒沢は、周囲の反応が意外なものであったと語る。「実は『E.T.』の公開当時、私の周りにいた映画関係者の多くがこの作品に否定的な意見を持っていました。そうした意見の根底には、やはり先に述べた『未知との遭遇』との比較が大きかったようです。『こんな小さな物語でいいのか』という声をよく聞きました」と、それまでになかった新鮮な物語運びが、映画のプロたちをも困惑させたのだという。
「宇宙人もしくはUFOと遭遇してしまう人々、それを追う人々が並行して描かれるという基本的な物語の構造は両者に共通しています。しかしラストの主人公の決断だけが決定的に違っていました。エリオットはE.T.に誘われても宇宙ではなく地球での生活を望むのです。私はそれを観た時に、『よくこれをやった』と衝撃を受けたことをよく覚えています」。
本作が描く“家族愛”や“信頼・勇気・友情の力”といったヒューマニズムに基づいたテーマ性は、場合によっては宇宙人との交流や冒険心に重きを置いたSF作品とは相対するものになりかねない。「広い世界へ冒険に行く映画もおもしろいけれども、本作のように家族や友情を守ろうとして留まる映画もまたいいのではないか。おそらくスピルバーグ監督は『未知との遭遇』と真逆の結論を見出すことで、ファンから批判されることはわかっていたのでしょう。それでもあえてやってのける、その強かさやチャレンジングな姿勢は大いに見習いたい部分です」と、改めてスピルバーグの映画監督としての大きさを物語る。
「“最新作”と思って観てほしい」これからの世代へ、『E.T.』が伝える普遍的な感動
そして「もう一つ、否定的な方々からよく聞かされたのは、“有無を言わせぬ感動がある”ということでした」と明かす。「ジョン・ウィリアムズの音楽と、非常に人々の琴線に触れるテーマ設定。どこか無理やりにでも感動させられたと思ってしまうのでしょう。でも私自身、それは映画にとって決して悪いことだとは思っていません。本来、映画は受け取り方によって様々な解釈ができるものであり、現代ではそれを皆が当たり前と思うようになりました。ですので、意地を張らずに『E.T.』に身を委ね、大いに感動してもいいのです。きっと当時、意地でも感動したと認めたくなかった人たちも、あらためて本作を観れば、素直に『負けたな』と思うでしょうね」。
最後に黒沢は、まだ『E.T.』と出会ったことのない若い世代に向けて、本作の“見方”を教えてくれた。「本作は40年を経ても、まったく色褪せない作品であると断言できます。古い作品だと考えず、“最新作”と思って観てみてください」。