コーヒーを淹れる姿にも哀愁が…松坂桃李が『流浪の月』で作り上げた影のある青年像

コラム

コーヒーを淹れる姿にも哀愁が…松坂桃李が『流浪の月』で作り上げた影のある青年像

凪良ゆうによる同名小説を、『怒り』(16)の李相日監督、広瀬すず&松坂桃李のW主演で映画化した『流浪の月』が、5月13日(金)より公開される。世間を騒がせた女児誘拐事件の“元誘拐犯”と“被害者女児”というレッテルを貼られた男女が、事件から15年後に再会する様を描く本作。影を背負った姿で真骨頂を発揮しているのが松坂桃李だ。

【写真を見る】ぺったんこの前髪に、ほっそりとした体つき…松坂桃李の新たな魅力に注目!
【写真を見る】ぺったんこの前髪に、ほっそりとした体つき…松坂桃李の新たな魅力に注目![c]2022「流浪の月」製作委員会

家に帰りたくない事情を抱え、雨が降るなか、一人公園で本を読んでいた10歳の少女、更紗。そんな彼女に傘を差し出したのは大学生の文。「うち、くる?」というひと言をきっかけに、2人の共同生活が始まるが、夏の終わりのある日、幸せな時間は文の逮捕で突如、幕を下ろすことに。それから15年、ファミレスでバイトをし、恋人とは結婚間近の日々を過ごしていた更紗だったが、ある日、職場の同僚に連れられ訪れたカフェで、マスターとして働く文と予期せぬ再会を果たすことになる。

再会した2人の複雑な関係や過酷な運命が綴られる本作で松坂が演じるのは、更紗を家にあげたことから誘拐犯として逮捕されてしまう佐伯文。事件後は、“ロリコン”や“誘拐犯”といった世間からの好奇の視線から隠れるように生きる青年で、松坂が「これまで演じたなかでもっともつかめない人物」と語るように、ミステリアスな空気を帯びたキャラクターだ。


松坂桃李が演じるのは、“元誘拐犯”というレッテルとともに生きる青年、文
松坂桃李が演じるのは、“元誘拐犯”というレッテルとともに生きる青年、文[c]2022「流浪の月」製作委員会

これまで、彼の出発点であるヒーロー役から、ヤクザ刑事役まで多種多様なキャラクターを演じ分けてきた松坂。特に最近は『娼年』(18)、『新聞記者』(19)、『空白』(21)など物静かだが心に黒い感情を持つ役どころで観客の心をざわつかせてきたが、本作でもその凄味がかった演技力を存分に披露している。

事件から15年、予期せず再会を果たした男女の複雑な関係が綴られていく
事件から15年、予期せず再会を果たした男女の複雑な関係が綴られていく[c]2022「流浪の月」製作委員会

例えば、前髪がうっすらと目にかかるほどの野暮ったい髪型に、シャツの上からでもわかるほっそりとした体つきなどの身体的な特徴によって、孤独を抱える青年像を表現。喫茶店のマスターとしての佇まいもハマっており、挽いた豆にゆっくりとお湯を注ぎ、コーヒーを客の元に運ぶなんてことのない動作一つからも、業を背負いひっそりと生きる内省的な人物像を浮かび上がらせている。

母親を前にした表情など、抑えめながら確かに感情が伝わってくる演技は見ものだ
母親を前にした表情など、抑えめながら確かに感情が伝わってくる演技は見ものだ[c]2022「流浪の月」製作委員会

声を荒げるような派手な表現はほとんどないが、子ども時代の更紗が湖で泳ぐ様子を見守るかすかな笑顔や、厳格な母親に恐れをなし、声を震わせながら紡いでいくセリフ回し、淡々としていながらも意志を感じさせる眼差しなど、文が抱えるあきらめや怒り、せつなさといった複雑な感情がこもった姿も随所で披露。世間からは“元誘拐犯”としてしか見られない男を、心を持った一人の人間として演じてみせており、その一挙手一投足からは目が離せなくなってしまう。

さすがの演技で物語に深みをもたらしている松坂桃李。物静かなテイストゆえに役者たちの演技が際立っている『流浪の月』で、彼の新味を見届けてほしい。

文/サンクレイオ翼

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