“復讐劇”の鬼パク・チャヌク、監督デビュー30周年。『オールド・ボーイ』から『別れる決心』まで連なる“復讐”と“贖罪”
パク・チャヌク監督が今年、デビュー30周年を迎えた。 世界の巨匠として名高い彼は、これまで『JSA』(00)、『オールド・ボーイ』(03)、『親切なクムジャさん』(05)、『渇き』(09)、『お嬢さん』(16)などを披露してきた。しかし、2022年はパク・チャヌク監督にとってさらに意味深い1年になりそうだ。現地時間5月17日より開催される第75回カンヌ国際映画祭の公式コンペティション部門に最新作『別れる決心』が出品される。
パク・チャヌク監督は2004年の第57回カンヌ国際映画祭審査員大賞を受賞した『オールド・ボーイ』、2009年の第62回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した『渇き』、2016年の第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に招待された『お嬢さん』に続き、再びレッドカーペットを踏むことになった。
韓国はもちろん、海外でも広く知られているパク・チャヌク監督の作品には、常に"破格"という修飾語が付く。ただ刺激的だとか、暴力的だからというわけではない。 極端な選択の岐路に置かれたり、絶望的な現実に追い詰められている人間の感情の描き方がとても衝撃的だからだ。壮絶で残酷な復讐をテーマにする作品のクライマックスには、いつもそれぞれのやり方で懺悔する人々の姿が描かれる。 彼の作品は決して大衆的とは言えないが、一度観れば絶対忘れられない作品だということだけは間違いない。
不穏な空気から破局的な結末へ…"復讐3部作"の共通点
南北分断のイデオロギーを事細かに描いた『JSA』で名を馳せたパク・チャヌク監督。その後『復讐者に憐れみを』(02)は、興行面では惨敗したものの、『オールド・ボーイ』と『親切なクムジャさん』につながる"復讐3部作"の序幕を開いた作品として評価されている。彼の復讐劇は常に物々しい雰囲気に包まれていて、追い詰められた主人公たちは極端な選択をしてしまい、破局に突き進むという共通点がある。
『復讐者に憐れみを』は、聴覚障害者のリュ(シン・ハギュン)が腎臓病を患っている姉を助けるため、ドンジン(ソン・ガンホ)の娘であるユソン(ハン・ボベ)を拉致して開かれる物語を皮肉で残酷に描いている。被害者と加害者の境界を崩した同作は、“因果応報”な多くの映画とは違って、善悪の区分を明確にせず、不条理な状況に置かれた人物に繰り返される暴力を、赤裸々に見せてくれる。このころからパク・チャヌク監督は作中に"身体切断"シーンを入れるようになり、『オールド・ボーイ』では舌を、『親切なクムジャさん』では指を切断するシーンが出てくる。身体の切断には"懺悔"の意味が含まれているというのが、彼の説明だ。
日本の同名漫画を原作とした『オールド・ボーイ』は、近親相姦という衝撃的な設定にもかかわらず、たくさんの観客を魅了した名作として評価されている。原作にはないこの設定について、主人公のオ・デス役を演じたチェ・ミンシクがパク・チャヌク監督に「こんな映画を作っても大丈夫なのか」と、恐れながら問いかけたという話は有名だ。何者かに拉致され、なにも知らされず15年間狭い部屋監禁されていたオ・デスは、突然そこから解放されてミド(カン・ヘジョン)という若い女性と恋に落ちるが、やがて彼は絶望を覚えることとなる。オ・デスは過去に起こした過ちに対して懺悔する意味で、自ら舌を切断してしまう。
『親切なクムジャさん』は、復讐劇を女性の視点で描いた作品だ。美貌をたたえたクムジャ(イ・ヨンエ)は、冤罪で刑務所に入れられてしまい、出所してから自分に濡れ衣を着せたペク先生(チェ・ミンシク)を処断する姿を残酷に盛り込んでいる。主人公のクムジャだけでなくペク先生のせいで子どもを失った遺族も復讐劇に参加することで、観客により大きなカタルシスを与える。
『親切なクムジャさん』でも『オールド・ボーイ』も同じく、“身体の切断”は懺悔を象徴している。刑務所から出たクムジャは亡くなった子どもの両親に会い、自分の指を切ることで贖罪の意志を示す。本来であればシリアスな雰囲気であろうこのシーンが、なぜかとても滑稽に描かれていて、笑いを誘ってしまう。ほかにも復讐という重いテーマにもかかわらず、失笑を禁じ得ないシーンが何度も出てくるが、そういう"不調和"こそがパク・チャヌク監督の作品でしか見られない魅力である。