“復讐劇”の鬼パク・チャヌク、監督デビュー30周年。『オールド・ボーイ』から『別れる決心』まで連なる“復讐”と“贖罪”
復讐だけではない…女性キャラクターを輝かせるパク・チャヌク監督
いままで見たことのない新しい女性キャラクター像で観客を驚かせるのもパク・チャヌク監督の得意分野だ。彼が作り出した女性キャラクターたちは能動的で賢いという共通点がある。いまの時代になっては主体的な女性が映画に登場するのも珍しくないが、わずか数年前には常に男性が“騎士道精神”を発揮し、女性は彼らに助けを求める受動的な人物でしか描かれていなかった。しかしパク・チャヌク監督はそういった暗黙のルールを破り、物語の主体として女性キャラクターを前面に出すことで、これまで以上に映画ファンを楽しませてくれた。
『復讐者に憐れみを』のヨンミ(ペ・ドゥナ)はすべての事件の元凶であり、独特な雰囲気で終始一貫ストーリーを掌握している。CMのコピーから取った"酸素のような女性"というあだ名で呼ばれていた清純派女優のイ・ヨンエは、『親切なクムジャさん』で真っ赤なアイシャドウを塗った復讐の鬼に成りきって、「イ・ヨンエにこんあ姿があったとは」という絶賛を受けた。
"オルチャン(芸能人のようにかっこよくてかわいい一般人を意味する韓国の略語)"として名を馳せていたキム・オクビンはパク・チャヌク監督の『渇き』をきっかけに180度変わった演技を披露した。同作で神父のサンヒョン(ソン・ガンホ)に出会って自分の欲望をただ発散させながら快楽に溺れるテジュ役を演じたキム・オクビンは、パク・チャヌク監督の短編映画『一場春夢』(22)では村を助ける恩人として大活躍した。
『お嬢さん』の秀子(キム・ミニ)とスッキ(キム・テリ)は、この上なく意欲的な女性コンビだ。「私の人生を壊しに来た救世主」という名台詞を残した同作の女性キャラクターたちは、1930年代の日本統治下を背景にしているとは信じられないほど能動的だ。いわゆる“男性のファンタジー”から抜け出して痛快な一撃を加える女性たちの連帯はピリッとした快感を与える。特に初の長編映画に挑戦したキム・テリは『お嬢さん』をきっかけに次世代女優として注目を集め始めた。
監督デビュー30周年、日本では『オールド・ボーイ 4K』が公開
日本では国内外の映画賞で高い評価を得た『オールド・ボーイ』を4Kリマスター化し、『オールド・ボーイ 4K』として5月6日より全国公開されている。当時多くの映画ファンを驚愕させた、オ・デスがハンマーを振り上げ、数十人のヤクザを相手に死闘を繰り広げる姿を、約3分の横移動長回しワンカットで撮影した横移動アクションも忘れがたい。
いまもなお映画やゲームなど、様々な映像の世界に影響を与えている伝説的なシーンだ。当初は細かいカット割りを想定していたがパク・チャヌク監督が撮影当日ワンカット長回しでの撮影に変更。もともと、それぞれの役者に複雑な動きが想定されていたが、その場で調整し直したという。
韓国では新作『別れる決心』が6月29日に公開される予定。同作は山で起きた変死事件を捜査する刑事へジュン(パク・ヘイル)が、被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)に出会って、彼女を疑いながらも興味を持つことから始まる物語を描く。中華圏出身女優のタン・ウェイをはじめ、俳優パク・ヘイル、コ・ギョンピョ、パク・ヨンウ、女優のイ・ジョンヒョンらが出演する。
『お嬢さん』以来、6年ぶりの韓国映画『別れる決心』で4回目のカンヌ進出を達成したパク・チャヌク監督は、「まだコロナ禍が終わっていない時期に参加する映画祭なので、いつもより特別に感じます。今回カンヌでは時間が許す限りたくさんの映画を観て、誰よりも長くスタンディングオーベーションをするつもりです」と感想を伝えた。
文/楊智媛