白石和彌監督「台本通りにならないのが心地いい」改稿する美術担当&肝のシーンをカットする編集に感謝
阿部サダヲ×岡田健史のW主演映画『死刑にいたる病』(公開中)のトークイベントが16日、本屋B&Bにて開催され、白石和彌監督と長年白石組で活躍する美術担当の今村力と編集の加藤ひとみが登壇し、ネタバレありの貴重な撮影秘話を語り尽くした。
白石監督は今村との仕事について「作品の根底から世界観を作ってくれる」と説明し、今村の映画的嗅覚に惚れ続けいまに至っていることを明かす。『凶悪』(13)の際には、「直したほうがいいと思うので書き直しておいた」と告げられ、脚本を3割ほど修正されたとし、「僕が知っていた美術とは違っていました。脱稿までしていましたから(笑)」と原稿の書き直しまでする出会ったことのない美術担当であると、笑顔を浮かべながら今村の仕事のやり方に触れていた。
加藤は今村の作り込みについて「登場人物の引き出しの中まで、しっかりと作り込まれています。それでも作品を仕上げるうえで、カットしなければならない部分はあるので“ここ、切りやがって!”って思われているかも」と苦笑い。
加藤のこのコメントに白石監督は「今村さんの飾りは切っても目減りしない。空間恐怖症な感じがするほど、切っても切ってもキャラクターの造形が残るように作り込まれています。なので、たとえ編集で加藤さんがカットしたとしても“あー、切っちゃった”と思ったことはありません。切っても切っても、どの方向に向けても画になります。目減りの心配がないのがすごい」と大絶賛。加藤も編集をしながら今村の作り込みから、「こんな本を読むんだ」などと、キャラクターの趣味を知ることが楽しいとうれしそうに語った。
白石監督との映画作りでは「揉めることはない」とコメントした加藤は、二人の作業はたとえるなら卓球のようだと説明。白石監督は長編デビュー作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(09)で、肝となるダンスシーンを編集でカットされたことを振り返り、「確か、“台本通りやた方がいいですか?”と質問されて…」と苦笑いを浮かべながらも、そういった提案が心地よく感じたことも明かしていた。
白石監督が加藤に「撮影現場に来ない理由を知りたい」と質問すると、「ケータリングはいただきに行くけれど、撮影を見ることはない」とキッパリ。「例えば、外観と内観は別の場所で撮影することもあります。そういうことって知らない方がいいと思っています。出来上がった映像素材を見て違和感がなければそれでいい。余計な情報は入れたくないんです」と説明。さらに「役者さんと挨拶してしまうと、顔が浮かんでしまって…」と話したところで、白石監督が「余計な感情が入ってカットしづらくなるよね(笑)」とコメントし、笑いを誘っていた。
トークイベントでは、ロケ地選びの経緯や作り込みのポイント、実際の映像を観ながらの編集裏話や「いまだから言えるけれど…」といったここでしか聞くことのできない貴重なネタが次々と明かされ、イベントを配信で視聴していた本作のファンからは、3人が驚くような質問も次々と寄せられた。
なかには、阿部演じる連続殺人鬼、榛村大和が営んでいたパン屋「ロシェル」に関する細かすぎる質問も。パンの価格設定の理由や人気のパンランキングにも意味があるのかなど、1度観ただけでは気にならないような箇所まで、チェックしている様子。しかし、ファンの細かすぎる質問以上に、ありとあらゆる演出にこだわりがあることが3人から明かされ、「気持ち悪い映画」「ポップコーンがすすまない映画」「体のなかに痛さを感じる映画」と評されながらも、繰り返し観たくなる映画であることを証明していた。
映画を作ること、自分の仕事について「とても大変だけど本当に楽しい」と語った今村と加藤。今村はこの日のイベントで編集の仕事にも興味を持ったようで「もし、美術をやっていなかったら、編集も向いていたかも」とニコニコ。加藤も「映画はルックが大事だから、いまからでも今村さんに弟子入りして、美術を学びたい。お互いの仕事、交換してみます?」と提案するなどノリノリの様子。そんな二人のやりとりを見た白石監督は「“そこまで考えてくださっていたのか”と僕自身にも発見がありました。白石組には、音周りのスペシャリストもいるので、こういうトークの機会があったら、超絶おもしろくなると思います!」と次のイベントの提案し、トークイベントを締めくくった。
取材・文/タナカシノブ