“哀愁こそ正義”を地で行くリーアム・ニーソン…『マークスマン』に漂う枯れた魅力をひも解く
リーアム・ニーソンと言えば、69歳にしてアクション映画を安定供給し続ける“ハリウッド最強のお父さん”である。もともとはスティーヴン・スピルバーグがホロコーストを題材にした『シンドラーのリスト』(93)で、第66回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされるなど演技派だったが、2008年の『96時間』で、誘拐された娘を救い出す元特殊部隊のお父さんを演じたあたりからアクションスターとして開眼。いまでは毎年2、3本の主演作が公開されているが、その大半がアクション映画であり、もはや「ニーソン映画」という一ジャンルを築いていると言っていい。
王道の「ニーソン映画」こと『マークスマン』
2022年1月に日本で劇場公開され、早くも5月20日にBlu-ray&DVDが発売となった『マークスマン』(21)。本作はそんな「ニーソン映画」のなかでも王道のストーリーを持つ、西部劇を意識したロードムービーだ。ニーソンが演じるのは、アメリカとメキシコの国境沿いで細々と牧場を経営する孤独な老カウボーイ、ジム。ガンを患った妻に先立たれ、借金で牧場も失いそうになっている。
ある日、ジムは麻薬カルテルにねらわれていたメキシコ人の少年ミゲルを助け、親戚がいるというシカゴまで彼を送り届けることになる。しかし、カルテルの殺し屋が累々と死体の山を築きながら迫ってくる。はたして、ただの牧場主でしかないジムはミゲルを守れるのか?いや、ジムはただの牧場主ではなかった!かつて海兵隊に所属し、高度な狙撃技術を身につけた超一流の“マークスマン”だったのだ!
人生の悲哀を感じさせるバディと抑制の効いた演技
と、まるでヒーローものみたいに紹介してしまったが、「ただのオジサンが実は○○でした!」というのはニーソンがもっとも得意とするパターン。ニーソンは身長193cmの巨漢だが、マッチョを売りにしたアクションスターとは違ってリアリティが持ち味で、人生の辛苦が刻み込まれたしょんぼりした雰囲気を身にまとっている。本作のジムというキャラクターも、愛妻を亡くした悲しみからアルコールが手放せないなど、人生のどん底状態が実に板についている。
そして、ジムと逃避行を共にするミゲルもまた、麻薬カルテルに母親を殺された悲しみをぐっと堪える、感情をモロ出しにしない子どもだ。ミゲル役に抜擢されたジェイコブ・ペレスは、演技経験は乏しかったものの、反抗心を感じさせる独特の存在感を買われて大抜擢された。ニーソンとは50歳以上離れているにもかかわらず、人生の悲哀を飲み込んだような2人のストイックなコンビネーションが、王道のストーリーに独特の個性を与えている。
ジムとミゲルのキャラクターに宿っているストイックさは、『マークスマン』という作品全体にも及んでいる。ニーソンは押しも押されもせぬアクションスターだが、本作はド派手な見せ場で埋め尽くすタイプの映画ではない。そもそもジムは元軍人ではあるが、銃を使うのは狩りの時くらいで、犯罪とも無縁で生きてきた実直な一市民でしかない。
しかし麻薬カルテルの殺し屋に追い詰められるなかで、ギリギリのところで反撃のチャンスを見いだす。その瞬間、あくまでも冷静な判断力で、追手を一人ずつ仕留めるプランを立てて実行に移すのだ。それまではくたびれた老人だったのに、突然殺戮マシーンのスキルを発揮。その変貌がギリギリまで抑えられ、ついに静かな炎として燃え上がる。ニーソンの抑制の効いた演技力があってこその、渋くてアツいクライマックスがすばらしい。
Blu-ray、DVD
5月20日(金)発売
価格:5,280円、4,290円(ともに税込)
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
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