「LOTR」アラゴルン役から初監督作『フォーリング』まで…名優ヴィゴ・モーテンセンの歩み|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
「LOTR」アラゴルン役から初監督作『フォーリング』まで…名優ヴィゴ・モーテンセンの歩み

コラム

「LOTR」アラゴルン役から初監督作『フォーリング』まで…名優ヴィゴ・モーテンセンの歩み

ロード・オブ・ザ・リング』(01)がロンドンプレミアで世界初披露されてから早20年。「ロード・オブ・ザ・リング」三部作のアラゴルン役で世界的な人気を博し、『イースタン・プロミス』(07)、『はじまりへの旅』(16)、『グリーンブック』(18)の3作でアカデミー賞主演男優賞候補にもなった名優、ヴィゴ・モーテンセン。60歳が過ぎ、ますます円熟味を増していく彼が、『フォーリング 50年間の想い出』(公開中)で初めての監督に挑戦した。しかも、出演に加えて、製作に脚本、音楽まで手掛けているという。まさにモーテンセンにとって一つの到達点と言うべき本作へと続く、これまでのキャリアを振り返ってみたい。

【写真を見る】『フォーリング 50年間の想い出』で初監督を務めたヴィゴ・モーテンセンのキャリアをデビュー作から一気に振り返り!
【写真を見る】『フォーリング 50年間の想い出』で初監督を務めたヴィゴ・モーテンセンのキャリアをデビュー作から一気に振り返り![c] 2020 Falling Films Inc. and Achille Productions (Falling) Limited· SCORE [c] 2020 PERCEVAL PRESS AND PERCEVAL PRESS INC. · A CANADA - UNITED KINGDOM CO-PRODUCTION

世界各地で暮らした幼少期~演劇への目覚め

1958年、アメリカはニューヨーク州マンハッタン出身のモーテンセン。父親が農業従事者のデンマーク人、母は在ノルウェー米国大使館勤務のアメリカ人という家庭に生まれ、幼い頃は父親の仕事の関係で、ベネズエラやアルゼンチンへ移住し、牧場で2人の弟たちと乗馬や釣りに親しむ牧歌的な日々を送ってきた。また、夏になるとデンマークへ帰省し、11歳の頃に両親が離婚した際は、弟たちと母親に引き取られてニューヨークに戻っている。このように世界各地を渡り歩いてきた経験から、英語やスペイン語、デンマーク語、フランス語、イタリア語などを流暢に話すことができるという。

ニューヨーク州の大学を卒業後はデンマークやロンドンで暮らし、その頃から映画館に入り浸るように。イングマール・ベルイマンやアンドレイ・タルコフスキー、小津安二郎といった巨匠たちの作品に感銘を受け、俳優の道を志すようになった。当時の恋人を追ってニューヨークに帰国すると、アルバイトをしながらワークショップで演技の基礎を学び、1982年に舞台デビュー。舞台劇「ベント」でドラマローグ・アワードを受賞したことで実力派として注目され始める。

俳優のほか、詩人、カメラマン、画家としても活動し、独自の世界を表現してきたモーテンセン
俳優のほか、詩人、カメラマン、画家としても活動し、独自の世界を表現してきたモーテンセン写真:EVERETT/アフロ

PTSDに苦しむベトナム帰還兵役で高評価を獲得した『インディアン・ランナー』など名バイプレイヤーとして活躍

映画では、いくつかの作品で出演シーンがカットされるという経験をしながら、アーミッシュの青年役で登場したハリソン・フォード主演の『刑事ジョン・ブック 目撃者』(85)で本格的にスクリーンデビュー。レニー・ハーリン監督のホラー『プリズン』(87)で映画初主演を果たすと、ショーン・ペンの初監督作『インディアン・ランナー』(91)にも出演し、PTSDに苦しむベトナム帰還兵の男を痛々しく演じたことで高い評価を獲得している。

『刑事ジョン・ブック 目撃者』で本格的にスクリーンデビュー
『刑事ジョン・ブック 目撃者』で本格的にスクリーンデビュー写真:EVERETT/アフロ

また、本作で共演したデニス・ホッパーとは、互いに写真や絵画への興味が深かったことから意気投合。ホッパーはパトロン的な存在となり、傑作スリラー『ダイヤルMを廻せ!』(54)をリメイクした『ダイヤルM』(98)にモーテンセンが出演し、劇中に登場するコラージュ作品を彼が制作した際は、ホッパーがアトリエを提供している。

『インディアン・ランナー』で共演したデニス・ホッパーがパトロン的な役割を担ってくれた
『インディアン・ランナー』で共演したデニス・ホッパーがパトロン的な役割を担ってくれた写真:EVERETT/アフロ

その後、石橋凌と共演した『ヤクザVSマフィア』(93)や原子力潜水艦を舞台にしたサスペンス『クリムゾン・タイド』(95)、性差別が根強く残る米海軍のエリート偵察部隊の訓練に女性将校が挑戦する『G.I.ジェーン』(97)といったカルト作や良作、話題作に幅広く参加しては様々な役柄を演じ分け、個性の光るバイプレイヤーとして活躍していった。

日本のヤクザとイタリアン・マフィア、FBIが血で血を洗う抗争を繰り広げる『ヤクザVSマフィア』
日本のヤクザとイタリアン・マフィア、FBIが血で血を洗う抗争を繰り広げる『ヤクザVSマフィア』写真:EVERETT/アフロ

「ロード・オブ・ザ・リング」3部作のアラゴルン役で大ブレイク!

そんなモーテンセンが世界的な知名度を獲得することになったのが、J・R・R・トールキン原作のベストセラー小説をピーター・ジャクソンが映画化した「ロード・オブ・ザ・リング」3部作だ。物語の舞台である“中つ国”を救うため、主人公のフロド・バギンズ(イライジャ・ウッド)と共に旅立つ“旅の仲間”の一人、アラゴルン役に抜擢され、アクションや殺陣を披露。さらに、人間の国を治める王族の末裔でありながら、その宿命を憂い、葛藤する影の部分も丁寧に表現し、原作ファンも納得の見事なアラゴルン像を体現した。

アラゴルンのオークやウルク=ハイを次々と斬り捨てる剣技にしびれる!(『ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間』)
アラゴルンのオークやウルク=ハイを次々と斬り捨てる剣技にしびれる!(『ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間』)写真:EVERETT/アフロ

しかし、そんなアラゴルン役も当初は別の俳優が演じる予定だった。『クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア』(02)などのスチュアート・タウンゼントがキャスティングされ、実際に撮影も開始されたのだが、その段階でタウンゼントがアラゴルン役には若すぎるという判断に。降板した彼に代わって、白羽の矢が立ったのがモーテンセンだったのだ。

人間の国を治める王の末柄であるアラゴルンだが、その責務を果たせるかどうかで葛藤していた(『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』)
人間の国を治める王の末柄であるアラゴルンだが、その責務を果たせるかどうかで葛藤していた(『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』)写真:EVERETT/アフロ

突然舞い降りてきたハリウッド大作への出演機会にモーテンセンも乗り気かと思いきや、そうでもなかったのがおもしろいところ。ニュージーランドでの約1年半にわたる撮影や幼い息子と離れることを懸念し、一度はオファーを断ろうとしたという。しかし、当の息子が原作小説の大ファンだったこともあり、「受けないと口を聞かない!」といった強い後押し(?)もあって出演を決めたそうだ。

成長した息子、ヘンリーと肩を並べるモーテンセン
成長した息子、ヘンリーと肩を並べるモーテンセン写真:EVERETT/アフロ

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